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かるた界に誕生した異端の新名人。
粂原圭太郎が語る伝統への挑戦。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJun Ikushima
posted2019/02/28 07:30
かるた界の“異端”でありながら頂点まで上り詰めた粂原圭太郎名人。その思考法は合理的かつストイックだ。
かるたの歴史はまだ110年しかない。
生島 話を聞いていくと、発想の柔軟性が際立ちます。私は門外漢ですが、かるたというのは保守的な価値観が重んじられる世界であり、そこで名人が戦っているのだということも伝わってきました。
粂原 かるたは文化的な競技ですが、まだ110年ほどの歴史しかありませんし、戦略面では発展の余地が大きい競技だと思っています。僕自身、前提を疑うことはとても大切なことだと思っています。当たり前のことを、当たり前と思ってはいけない。天動説に異を唱えなければ、科学の進歩もなかったわけですから。実は、お話ししておきたいのは、名人戦で勝つことには経済的な報酬は伴わないことです。名人になると、いろいろな大会に呼んでいただけるのですが、実際には自分の負担が増えてしまうことが多いのです。大きな名誉ですが、それが現実です。
生島 賞金が、ないのですか?
粂原 大会によっては、商品券を頂戴する場合もあります。
生島 それは、純粋にアマチュアの世界ですね。なるほど、大学を卒業してから競技を続けるのが難しい理由が見えてきました。
好きな句は、「滝の音は……」。
粂原 そうした価値観を変えていくことも必要なのかもしれませんし、今後は通算5期、名人戦を制すれば永世名人の称号を得ることが出来ますから、狙っていきたいです。
生島 どんなスタイルで?
粂原 変幻自在、ですかね。
生島 最後に、いちばん好きな一首を挙げていただけませんか。
粂原 大納言公任が詠んだ歌です。
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ
滝を流れる水音は、聞こえなくなってずいぶんになるけれども、その名声は時を超えて流れ伝わり、人々の話題となって記憶に留められている――といった意味です。僕も印象に残るかるたを取ることで、同じ境地を目指していきたいですね。