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かるた界に誕生した異端の新名人。
粂原圭太郎が語る伝統への挑戦。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJun Ikushima
posted2019/02/28 07:30
かるた界の“異端”でありながら頂点まで上り詰めた粂原圭太郎名人。その思考法は合理的かつストイックだ。
運が悪くても勝つ確率を高める。
生島 異端? かるたにおける異端とは、どんなことを指すんですか? かなり興味深いです。
粂原 正統派と呼ばれる方々は、音を聞き分け、そこから直線的に動き出して札を払い飛ばします。たとえば、3字決まりの札には、この二首があります。
「あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ」
「あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ」
正統派のかるたでは、3字目の「の」か「か」を聞き分けてから動き出すのが正しいとされています。僕は、そうはしません。
生島 どうするんですか、名人は。
粂原 2文字目が聞こえた瞬間から動き出してプレッシャーをかけ、相手が思うようには取らせない戦術を採ります。かるたでは「出札が悪い」と言って、運が大きく勝敗を左右するとされていますが、運ではなく、たとえ出札が悪いとしても、勝つ確率を高めることは可能です。
生島 仕掛けることで、相手の強みを消しているわけですね。面白くなってきました。動き出しの他にも、なにか他の人とは異なった戦略がありそうですね。
粂原 「陣地」と、「ポジション・チェンジ」は僕のオリジナルかな、とは思います。
生島 なんだか、サッカーの話のようですね(笑)。
粂原 あ、サッカーのフォーメーションからヒントを得ています(笑)。ヨーロッパのクラブでは、ポジションを固定化せず、ひとりの選手が複数のポジションをこなす流動的なシステムを使っているので、試合中も様々な状況に対応できるんですよね。それを見て、これは札の配置にも応用できると気づきました。
邪道と見る人もいる独特の戦法。
生島 応用? サッカーがかるたにどんな形で影響を与えることが出来るんですか。
粂原 トップレベルの方々は、自陣の札の位置が固定化していることが多いんです。そうなると自然と守りには強くなりますが、攻める方からも、相手の札の位置が分かりやすくなるわけです。僕は、札の位置を固定することはないです。
生島 なるほど! つまり、それぞれの札は自由にポジション・チェンジをするということですね?
粂原 そうです。僕はセオリーには、こだわりません。かるたでは相手陣の札を取った時に、相手に自陣の札を1枚送ることを「送り札」と呼びますが、僕の場合は「えっ、それを送るの?」と思われることも多いんです。でも、送る前から相手の傾向を見て、その札がどこに置かれるかの予測がついているんです。送ってから確認するようなことはないですね。
生島 相手は名人の読み通りの場所に置き、そこを狙っていく……。
粂原 そうなります。そういえば、陣地の話をしていませんでしたね。かるたでは、自陣の左右、敵陣の左右と4つの陣がありますが、僕は自陣の左は重視しません。
生島 自陣を守ることは重要に思えるんですが……。
粂原 僕の考え方としては、人間は4つのことに集中するよりも、3つのことに集中したほうがはるかに強い力を発揮できるということなんです。それに、試合が進むにつれて札を自陣右の上段に集めていく戦術を採ります。
生島 それは名人独特の戦法なんですか。
粂原 そうです。実は、テレビで解説をなさる諸先輩の中には、「良い子は真似しないようにしましょう」とまでおっしゃる方もいます。まあ、邪道と見られているでしょうね。
生島 あまり札を動かさない方が、美しいとされているわけですね。ではなぜ、そうした戦術にたどり着かれたんですか。
粂原 理論というよりは、目の前の状況をなんとか打開したい、という試合経験から生まれてきました。試行錯誤していくなかでそれが成功体験となり、柔軟性を持った戦いが持ち味になってきたように思います。