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かるた界に誕生した異端の新名人。
粂原圭太郎が語る伝統への挑戦。
posted2019/02/28 07:30
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Jun Ikushima
マンガ、そして映画の『ちはやふる』で注目を集めた百人一首の世界。
今年の1月5日、近江神宮で行われた「名人戦」はとにかく見ごたえがあった。3連覇中だった川崎文義名人(福井渚会)に対し、昨年に引き続き挑んだのは、京都大学かるた会の粂原圭太郎挑戦者。
名人戦は、5番勝負で3勝した方が名人となるが、この戦い、朝の10時30分過ぎから試合が始まり、5回戦にもつれこむ熱戦となった。
決着がついたのは、冬の短い日がとっぷりと暮れてからである。勝ったのは、京大経済学部卒業の才人、27歳の粂原挑戦者だった。
この試合を見て印象的だったのは、名人になるためには、尋常ならざる総合力が要求されるということだ。
まず、体力。休憩を挟むとはいえ、集中力を維持するには基礎的な体力が大切なのは明らかだった。なるほど、かるたの世界では若さは1つの武器だろう。
こうなったら、名人に話を聞くしかない。京都で「粂原学園」という小学生から大人までを対象としたオンライン学習塾を経営する名人に話を聞いたが、話は予期せぬ方向へと広がっていった。
「無心にならなきゃ」という意識すら消える。
生島 名人位就位、おめでとうございます。それにしても、凄まじい試合でしたね。
粂原 ありがとうございます。かるたは、1試合に60分ほどかかり、休憩が10分から20分くらいあります。試合の進行は同時に行われているクイーン戦の進み具合によっても変わってきますが、今回は名人戦、クイーン戦とも第5戦にまでもつれ込みました。その第5戦を戦っているときに、発見がありました。
生島 発見?
粂原 自分が無心になり、「フロー状態」に入った感じでした。雑念がなくなり、とにかく札を取ることに集中できるようになりました。第4戦までは「無心にならなきゃ」と意識していたんですが、そういった雑念も消え、ただひたすら目の前のことに集中できるようになったんです。
生島 アスリートもフロー状態や、ゾーンを作るために様々な工夫をしています。名人もなにか工夫をされたんですか?
粂原 名人戦への挑戦が二度目ということも大きかったと思います。去年、初めて名人戦に挑戦した時は、「初めてのチャンスだ」と意気込みすぎた面がありました。試合会場の近くに一泊し、就寝時にはかなり本気でイメージトレーニングをしていたら、交感神経が優位になってしまったのか、1、2時間しか眠れなかったんです。結果は、自分としては納得のいくパフォーマンスが発揮できませんでした。