サムライブルーの原材料BACK NUMBER
栗原勇蔵「失恋じゃないんだけど」
中澤佑二が抜けたマリノスを守る男。
posted2019/02/07 11:30
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
J.LEAGUE
ボンバーがいない。
そうだよな、引退しちゃったんだもんな。1月8日に横浜F・マリノスと自身のSNSを通じて発表しただけで、彼は静かに消えるようにいなくなってしまった。
1月下旬、石垣島キャンプを取材したが、17シーズンも所属したマリノスの「22」がいないのは、どうにもこうにも違和感があった。小笠原満男のいない鹿島アントラーズ、楢崎正剛のいない名古屋グランパスもきっとそうなんだろうな、とふと思った。
たまに取材にくる筆者ですら思ったぐらいなのだから、チームメイトはもっと感じているに違いない。2002年にユースから昇格して以来、マリノス一筋の35歳、栗原勇蔵にぶつけてみると、武骨な表情にセンチメンタルが広がっていた。プロ1年目からずっと中澤佑二は一緒にいた。同じポジション。隣にいるのが、当たり前だった。
「うん、何だろうな。これまでも先輩のマツさん(松田直樹)、同期のテツ(榎本哲也)、下の世代のヒョウ(兵藤慎剛)たち、長くこのチームに在籍した選手が退団したときもそうだったけど、家族より毎日、顔を合わせていた仲間が急にチームからいなくなるんだから、そりゃあ違和感あるよね。
ボンバーなんて、何年? 俺がプロになってずっといたわけでしょ? 失恋じゃないんだけど、時間が今の感覚を忘れさせてくれるんだろうなっていう思いが今は一番近いかな」
雲いっぱいの石垣の空に、彼は何気なく目を泳がせた。
「集中を切らせたこと見たことない」
ボンバーとユーゾー。
ボンバーは'02年の移籍初年度からレギュラーで活躍し、ユーゾーは'06年以降、レギュラーに定着する。高くて、強くて。堅守マリノスを象徴するセンターバックコンビは、まさにJリーグ最強だった。
学ぶことだらけ。栗原にとって中澤は最高の教材だった。
「細かいポジショニングもそうだけど、一番学んだのは、あきらめちゃいけないということ。1点目取られて、2点目も取られたら守備の集中力がどうしても緩んでしまうのが普通だと思う。
でもボンバーは関係ない。次の点を取らせないことに、あの人は集中する。いや、ゲーム中に集中を切らせたことなんて、俺は一度も見たことないよ。だから俺というかマリノスのみんなも、たとえどれだけ試合の状況が悪くても“これ以上はやらせない”という気持ちで守ることができた。守ることの何が大切かって、ボンバーを見ればよく分かったから。
パートナーにしてもらって、結局はあの人の手のひらでうまく転がされていたのかもしれないけど、それによって俺も成長できた部分は凄くある。俺は何か言えることがあるとしたら、感謝の気持ちしかない」