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アメリカを感嘆させた「超接近戦」。
中量級の扉を叩く井上岳志の挑戦。
posted2019/01/29 10:30
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Getty Images
WBO世界スーパー・ウェルター級タイトルマッチが26日(日本時間27日)、米ヒューストンのトヨタ・アリーナで行われ、挑戦者3位の井上岳志(ワールドスポーツ)は王者のハイメ・ムンギア(メキシコ)に0-3判定負け。世界初挑戦は実らなかった。
スコアは120-108が2人、119-109が1人。数字だけ見れば「手も足も出なかった」という印象を抱くかもしれないが、DAZNの中継を見る限り、決してそんなことはなかった。井上は十分に「らしさ」を出して、31戦26KO無敗チャンピオンに何度も困惑の表情を浮かべさせた。
井上の「らしさ」とは「やりにくさ」と言い換えることができる。井上は身長173センチとこのクラスでは背が低く、筋肉質でガッチリとした体格の持ち主だ。この体格を生かして相手に迫り、接近戦で太い腕を振り回す姿はダンプカーのイメージ。
いわゆる美しいボクシングではないのだが、相手にしてみると「ボクシングをさせてもらえない」という非常にやっかいなスタイルと言える。
「12ラウンド戦って、相手の心を折るようなボクシングをしたい」
日本を旅立つ前、井上はこう語っていたものだ。
狙い通りの「超接近戦」を敢行。
ムンギアは183センチの長身ハードパンチャー。もともとアグレッシブなスタイルだが、この日は井上のスタイルを意識してか、ジャブを突きながらアウトボクシングで試合を組み立てようとした。対する井上は作戦通り「超接近戦」を初回から仕掛けた。ムンギアをロープに押し込み、懐にグイッと頭を入れ、振り下ろすような右を何度も繰り出した。
井上は毎回のようにムンギアを後退させ、ロープに押し込む場面を作って攻勢をアピールした。おおむね作戦は遂行できた。10回に左フックを食らって足をばたつかせるシーンがあったが、最後まで己のボクシングを貫いた。