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アメリカを感嘆させた「超接近戦」。
中量級の扉を叩く井上岳志の挑戦。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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posted2019/01/29 10:30

アメリカを感嘆させた「超接近戦」。中量級の扉を叩く井上岳志の挑戦。<Number Web> photograph by Getty Images

井上岳志(右)が挑んだ接近戦は、チャンピオンをおおいに苦しめた。中量級の厚い壁を打ち破ってほしい。

米ボクシング誌が井上の闘志を絶賛。

 それでも採点がこれだけ大きく開いたのは、全体としてジャブ、ワンツーから左ボディを打ち込んだムンギアのほうが手数が多かったこと、ムンギアは井上に押し込まれる場面があったとはいえ、決定打は防いでいたこと―─などが考えられる。

 ただし、最初に書いたように、スコアほどの大敗でなかったことは、王者の試合後のコメント(主催者発表)にも表れていた。「彼は戦士だった。彼の能力に驚いた。私はこの試合を通じてとても多くの経験を積んだと感じている」。

 米老舗ボクシング誌「リング」の電子版のレポートの一部も紹介したい。

「これらの集計(スコア)はこのファイトの本質を本当に示していない」

「試合に入る前、この日本人はよく知られていなかったが、彼は勇気、闘志、強さを見せつけた」

 井上の世界初挑戦は失敗に終わったとはいえ、リング誌のレポートにあるように、アメリカで存在感を示した意味は大きい。なんでもかんでもアメリカに進出すればいいというわけではないが、スーパー・ウェルター級という階級を考えると、日本ではなく、この階級の“本場”である海外に活躍の場があったほうがいいのは間違いない。

世界が遠い階級で、階段を上る。

 スーパーウェルター級は1つ上のミドル級と同様に、世界的に層が厚く、多くのスーパースターが誕生している階級だ。今回が3回目の防衛戦だったムンギアもスター候補の1人である。

 それだけに日本人選手にはハードルが高く、これまで誕生した日本人世界チャンピオンは、輪島功一、工藤政志、三原正、石田順裕(暫定)の4人だけ。最初の3人は'70、'80年代とかなり前の時代であり、このクラスがいかに世界と距離があるかを物語っている。

 それでも近年は亀海喜寛が'17年にビッグネーム、ミゲル・コット(プエルトリコ)とWBO王座を争うなど、スーパーウェルター級のパイオニアとして奮闘。日本人には遠かった世界との差を着実に詰めてきた。

 井上は高校時代にアマチュアで国体優勝、プロで日本、東洋太平洋、アジアパシフィック王座を獲得、一歩ずつ階段を上ってきた。「もっと強くなって、またアメリカに戻ってきたい」と力強く口にした29歳の次なるステージはスーパーウェルター級の本場だ。そう強く印象付けた一戦だった。

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井上岳志
ハイメ・ムンギア

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