マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校野球が失った1人の「逸材」。
日大三高で小枝守監督と邂逅した日。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/01/29 08:00
小枝守監督が清宮幸太郎、安田尚憲などが揃ったチームを率いてU18ワールドカップを戦ったのは記憶に新しい。
小枝監督が追いかけてきて……。
しかたありませんな……と部長先生に送り出されて、階段を下りたところで、小枝監督が追いかけてみえた。
「悪く思わないでください、最近こういう話が続いてて、部長もちょっと神経質になってるもんですから……誘わなくても、入れてくださいって来てくれるようにならないとダメなんですから」
20代の、たぶん真ん中あたりだったはずだ。まだぜんぜん有名でもない、新進気鋭の監督さんだったが、観音さまのような温顔とメリハリの利いた話し方がとても印象的だった。
あまりに丁寧なノックの名手。
小枝監督は「ノック」の名手でもあった。
私は小枝監督から、ノックとは何かを教わった。直接教わったわけではない。試合前のシートノックを見ることで教わった。試合より、シートノックを見に球場へ出かけたことが何度もあった。
なぜあんなに上手いのか……ある時、アッと思った。小枝監督のノックは、ボールを高く上げるのだ。
ボールを高く上げて、落ちてくるのをゆっくり待って、しっかり狙いを定めてからボールの落下位置にバットを入れてくる。
そのリズムと間(ま)が見事だった。東海大の横井人輝前監督、横浜高・渡辺元智前監督……考えてみると、ノックの上手な指導者の方は、みんなこのリズムと間を持っている。逆に、辛そうにノックを打つ方は、ボールの上げ方がおしなべて低いように思う。
ノックを打ちながら、打者には
「バッティングだっておんなじ。こうやって早めにタイミングを取り始めて、ボールとの距離感をもって捉えるんだよ」
小枝監督は、選手たちにきっとこう教えていたのだろう。
そして、これからノックを打ち込もうとする野手に向かって、
「ボールが上がっているこの間で捕球姿勢をとるんだよ。捕球姿勢をとりながら、スタートのタイミングを計るんだ……」
きっと、そうも念じながら、ノックバットを振っておられたのだと思う。そうでなかったら、あんなに1球1球丁寧な打ち方になるわけがない。