松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
修造感服!パラカヌー瀬立モニカは
今の自分を「最強」と言い切った。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byYuki Suenaga
posted2019/01/29 07:00
冬の川岸にあってもその寒さを吹き飛ばすほど元気な2人。これからもスポーツを通じて多くの人に勇気と希望を与え続ける。
多くの関係者に愛されている選手。
松岡「一所懸命頑張る選手はたくさんいるけれど、できることなら、正しい方向で頑張ってほしい。モニカさんはきっと正しい努力をしているんですね」
瀬立「いろいろな方からアドバイスをもらって、たくさんの選択肢を与えてもらったのが大きいです。それを自分で選べるような環境を作ってくれたのが、大学であり、西さんであり忍さん。多分、そこが一番成長できた要因ですね」
松岡「その頑張り、成長もあって、いろいろなサポートもついた。よい循環ですね。この舟にも、ちゃんとスポンサーさんの名前が入っている」
瀬立「そこにあるパラマウントベッドさんから支援していただいてます」
松岡「?? どこ?」
瀬立「土手の奥に見える、あの大きなビルの会社です」
松岡「え? ちょっと近すぎませんか。どういうつながりがあったんですか」
瀬立「同じ江東区であるということ。本社の目の前で練習している縁もあって、私がパラカヌーを始めた頃からずっとサポートして下さってます。退院したての頃に、サポートについて下さったんです。そんなことって、普通あり得ないんですけど」
松岡「そうですよ! ただ練習場所の目の前にあるからといって、サポートなんてしてくれませんよ。きっかけは何だったんですか」
瀬立「西コーチが詳しいと思います」
松岡「西さん、いよいよ出番です!」
西「もう一度言っておきますけど、私怖くないですからね(笑)。ね、モニカちゃん」
瀬立「はい(笑)。ぜんぜん怖くないです」
松岡「すみません。モニカさんのブログを見たら指導が厳しそうだったので(笑)」
西「パラマウントさんには、江東区カヌー協会の事務局長がまず、話しに行ってくださいました。小宮次夫さんといって、すごく先見の明を持った方。ただ、最初から理解されたわけではなかったみたいですけど」
瀬立「そもそもこの舟、けっこう高いんです。国産の舟がまだないので、パラの選手が使っているのはみんなポルトガル製。本体が60万円くらいします。で、このシートが約100万円。日本の職人さんの手作りです」
松岡「舟本体よりこの小さいシートの方が高いんですか。自分用だから?」
瀬立「カーボンでできていて、私のお尻の形を型にとって、オーダーメイドで十数名もの方が関わって、作ってくださっています。だから、2、3kg太ると合わなくなってきてしまう。今、新しいのを作っていただいているんですけど、型取りから調整までミリ単位で対応して下さって。このシートの腹当てが、いわば腹筋代わりでもあるので、すごく大事な相棒です」
松岡「へえ……。でも、縁もゆかりもない会社とモニカさんとを結びつけた、その小宮さんはすごい! パラマウントベッドさんも、最初からカヌー競技に造詣が深いわけではなかったと思うんです」
西「でも、小宮さんは諦めない人なんです。パラカヌーという競技がある、モニカちゃんという頑張っている子がいる。それを根気よく説明して、理解してもらった」
瀬立「舟もそうだし、今は遠征費もサポートいただいています。それにカヌーは私1人では絶対に担げないので、遠征になると必ずコーチと2人行動になる。そのことも理解してもらって、2人分の遠征費を負担いただいています」
松岡「ブログを読むと、遠征もすごく多いじゃないですか。海外の大会へは、舟を日本から持ち込むんですか」
瀬立「ヨーロッパの大会だとこのポルトガルの会社が用意してくれる舟を借りるのが一般的なんですけど、大切な試合にはやっぱり慣れた自分の舟を使いたい。そうすると手荷物が増えて、往復で30~40万は余計にかかってしまいます」
松岡「なるほど……。ベストな環境を作るのって大変だけど、今それができつつあるんですね。でも、それって嬉しい一方で、プレッシャーではないですか。良くしてもらった分、結果で応えないといけないわけだから」
瀬立「私、すごく周りの人に恵まれて、その方々への感謝の気持ちが前に進む原動力にもなっているんです。だからプレッシャーというよりは、一緒に戦ってもらっていて、心強い。チームで戦っているような、そんなイメージです」
北本忍さん、西明美さんの2人がモニカさんについて話す、その言葉や、彼女へと注がれる視線には、この子が可愛くて仕方がない、という、愛情がたっぷり含まれていた。
リオパラリンピックを経験したことで、開けた新しい視野と、大きな目標。コーチや、大学の関係者、スポンサー、シートづくりに関わってくれた職人さん……その全ての思いを受け止め、モニカさんは舟に乗る。
(第4回に続く)
(構成・小堀隆司)