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日本中を魅了したカーリング女子の
「いつでもステイ・ポジティブ!」 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph bySunao Noto/JMPA

posted2018/12/31 17:00

日本中を魅了したカーリング女子の「いつでもステイ・ポジティブ!」<Number Web> photograph by Sunao Noto/JMPA

カーリング史上初のメダル獲得。流行語大賞に選ばれた彼女たちだが、何よりも人の心を打ったのはその戦いぶりだ。

藤澤のラストショットは……。

 イギリスも黙ってはいない。サードのアナ・スローンが自身の2投目で正確なドローショットを決め、ナンバー1を確保。

 ついに、スキップの一投を残すのみになった。藤澤のショットはガードにわずかに触れて軌道が微妙にずれる。イギリスが2点を獲るチャンスを迎えた。藤澤はこのとき、負けも覚悟したと言う。

「あまりいいショットではなかったので後悔もしていました。ただ、(相手に)プレッシャーのかかるショットではあったので」

 実際、日本の選手たちが感じたほど、簡単なショットを相手に残したわけではなかった。ドローショットで真ん中に置いて確実に1点を狙う選択肢もあったが、ミュアヘッドは日本のストーンを弾き出すショットを選択する。

「あと数cm曲がれば」とミュアヘッドが悔やんだラストストーンが、日本のストーンに当たるハウスの中心に一番近かったのは、日本のストーンだった。

 一瞬、起きた事態がつかめないように動きを止めた日本の4人は、イギリスチームと握手を交わした直後、感情を爆発させた。涙を流しながら、互いを堅く抱きしめる。日本カーリング界初の五輪メダル獲得という快挙を成し遂げた瞬間だった。

コーチが感じていた疲労。

 今大会の戦いは、後半になるにつれて厳しさを増していった。初戦のアメリカ戦で勝利をあげると5戦目までで4勝1敗。過去の大会にないほどの好スタートを見せたが、それゆえに重圧ものしかかり、予選終盤のイギリス、スイスと連敗を喫した。小野寺亮二コーチはこう振り返る。

「疲労もたまっていたと思うし、(メダルを)意識したところもあったでしょうね」

 予選最後の試合となったスイス戦に敗れた後、吉田知那美は「今シーズン、こんなに(ショットが)決まらなかったことはないです」と涙を流し続けた。残る試合へのダメージが心配されたが、一夜明けると本来の笑顔を取り戻した。

 チームが掲げるのは「ステイ・ポジティブ」。言葉の通り、好ショットはみんなで称え、誰かにミスが出ても、それを和らげる笑顔で励ましあった。敗戦後もポジティブさは失わなかった。

【次ページ】 それぞれが迷い、現チームに。

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