One story of the fieldBACK NUMBER
福留を引きずり降ろす若虎はいるか?
金本知憲前監督が描いた理想の行方。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2018/12/28 11:30
金本監督が去り、福留孝介が残る。阪神の中心が甲子園育ちの生え抜き選手になる日は来るのだろうか。
チームの幹であり続けた“外様”たち。
3年前、金本さんが監督に就任したばかりの頃、記者たちを兵庫県芦屋市内の自宅に招いてくれたことがあった。長いテーブルを囲みながら、タイガースに長らく不在の生え抜きスラッガーを自分が育てあげ、しぶといチームをつくるという理想を語り、最後に笑い話として自虐的にこんなことを言っていた。
「俺、騙されやすいんよ。すぐ、人を信じるから騙されるんよ」
金本さんが辞めることになった時、なぜか、この言葉を思い出した。
在任中、チームの幹であり続けたのは、いわゆる“外様”と呼ばれる福留であり、糸井嘉男だったからかもしれない。
タイガースに思いを寄せる者からすれば、福留を引きずり降ろせるような選手が出てこない限り、金本さんが描いていた理想はかなわないだろうと、そんな気がする。
そして、おそらくそれは至難の業である。
阪神は若手が育ちにくいと言われるが。
これは福留が16歳になる前の春、彼を故郷・鹿児島から大阪へと連れていったPL学園のスカウトから聞いたエピソードだ。
鹿児島空港を飛び立った機上、福留は大阪が見えてくると、窓から眼下をのぞき込んで、こうつぶやいたという。
『大阪の空って、汚れているんですね』
幾多の有望選手を名門へと誘ってきたその人もさすがにギョッとしたという。まだ15歳の少年は不安そうにそれを言ったのではなく、むしろうれしそうに、これから始まる道への覚悟をたたえているような表情に見えたからだ。
それから25年。福留は今もその空の下で、厳しい生存競争を生き残っている。それどころか、自分だけの椅子にどっしりと鎮座している。
選手を育成する上で、タイガースを取り巻く環境は厳しい。よく言われることだ。
スポーツ新聞は連日、1面から5面までを阪神の話題で占め、二軍の試合にさえ、必ずメディアがきている。タテジマを論じることを生業とするOBたちにぐるり取り囲まれた満員の大甲子園で、勝てば天国、負ければ地獄という日々にさらされる。伝統と人気が醸成する窒息しそうな空気が空を覆い、それが生え抜きの選手たちを押しつぶす。だから若手が育たない。よくそう言われる。
ただ、本当にそうだろうか。