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スポーツドキュメンタリーの作法とは。
山岳レースと選手、取材者の距離感。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph bySho Fujimaki
posted2018/10/27 09:00
TJARのレース中、南アルプス・赤石岳で望月将悟にビデオカメラを向けるNHKのカメラマン。
人間ドキュメンタリーとして。
2012年にNHKスペシャルで放映された『激走!日本アルプス大縦断』。この番組の登場によって、TJARというレースの存在が広く知られるようになった。山岳ファンのみならず、多くの視聴者が、心身ともにボロボロになりながらもゴールを目指す選手の姿に心を揺さぶられた。
上述したTJARの番組、そして10月27日に放送の『激走!日本アルプス大縦断〜2018終わりなき戦い〜』、田中陽希の『グレートトラバース』などを手がけるNHKチーフプロデューサーの国沢五月さんに、話を聞いた。彼らはTJARという山岳レースの取材をどう捉えているのだろうか。
「TJARはレース番組というよりも、人間ドキュメンタリーだと考えています。だからこそ、選手一人ひとりが背負っているドラマに焦点を当てたいと考えており、インタビューなどの肉声も大事にしています」
聞けば、国沢さん自身も、学生時代からオリエンテーリングの選手として山を走ってきたのだという。
「世の中では山を走ることへの理解がまだまだ深まっていません。昔ながらの登山だけじゃない、山との向き合い方は自由で多様なんだということを伝えたいという想いもあります」
距離感はずっと課題だった。
今回、NHKではレース中300時間、選手インタビューで50時間分の映像を撮影したという。レース取材に関わったスタッフは約35名。複数のチームに分かれ、山岳エリアではランニングカメラマンが併走し、麓ではカメラマンとディレクターが車で選手を追った。レース中、取材クルーが選手に話しかける様子を見かけた。
私自身がTJARで葛藤した「選手との距離感」について、国沢さんにも尋ねてみた。
「それは僕らにとっても課題です。TJAR創設者の岩瀬幹生さんや実行委員会とも度々話し合ってきました。大会理念から見れば、選手への併走は好ましくないわけですけれど、一方でヒューマンドラマを追うのであれば、選手の表情や発する言葉など、どんな一瞬も捉えなければなりません。僕らも常に葛藤しています」
必要以上に声はかけないようにしながらも、レース中に基本的なインタビューは行なうというスタンス。今回も2012年の撮影でよい表情が撮れたゴール数キロ手前で望月に声をかけ、抜け殻になった姿と肉声を収めたという。