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スポーツドキュメンタリーの作法とは。
山岳レースと選手、取材者の距離感。
posted2018/10/27 09:00
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph by
Sho Fujimaki
今年の夏、日本海から太平洋まで415kmを舞台に争われる山岳レース、トランスジャパンアルプスレース(TJAR)を取材する間、ずっと葛藤していたことがある。
それは「選手との距離感」だ。
TJARはマラソンなどの陸上競技はもちろん、いわゆる通常のトレイルランニングレースとも趣旨が異なる。食料や水を補給するエイドステーションはなく、家族や仲間の応援も制限されている。物品の受け渡しのほか、選手や選手の持ち物に触れることは禁止されており、「マッサージ等は不可、単純な握手等は可」と競技ルールに記されるほど、選手と外部との接触は制限されている。
選手のメンタルに影響を与えてしまうことから、「選手の行動にシンクロナイズした継続的な併走、およびそれに類する行為」も禁止されている。当然、取材する側もこのルールに沿って取材することになる(ちなみに、併走はNHKのみ大会本部から許可されている)。
こうしたルールが設けられているのは、TJARが「登山者としての自己責任」や「自己完結」をレースの理念に掲げているからだ。だからこそ、選手は山中や麓の沿道に「応援者がいてくれるだけで力になる」という。実際には自分も、取材者ではありながら、選手の無事のゴールを願う応援者の一人だ。応援が選手の力になるのなら、ルール上許される範囲で声援を送りたい。
競技に関わる質問はせずに。
そんなことを考えながら7日間、選手と大会スタッフ、家族や応援者たちが生み出すTJARの空気を乱さないように努めつつ、4連覇中だった絶対王者・望月将悟の「無補給」という挑戦を見守った。競技中はあえて、こちらから競技に関わる質問はしなかった。
今回、NumberWebで公開した記事の作成と並行し、Documentary Film『無補給415km』の制作に携わった。映像作品をつくるというと、おおがかりな取材班を想像されるかもしれないが、コンパクトなチーム編成で撮影を進めた。
プロデューサーの藤巻翔や撮影監督の大嶋慎也、スタッフの谷允弥はスタート会場を撮影。その後、選手を先回りする形で夜中のうちに急峻な早月尾根から剣岳に登り、望月らが登ってきたところを撮影。撮り終わると急いで下山、またすぐ次の場所へと車を走らせる。そしてアルプスの山々や麓の町を移動しては、望月を待った。