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作家・中村航のセコンド体験記。
ボクシングは僕らの隣にあった。 

text by

中村航

中村航Kou Nakamura

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photograph bySports Graphic Number

posted2018/10/21 09:00

作家・中村航のセコンド体験記。ボクシングは僕らの隣にあった。<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

田宮真拓選手のセコンドについた中村航さん(左)。表情からも緊張感が伝わってくる。

U9といえど、ちびっこではない。

 朝9時から検診・計量が始まり、11時に開会式が終わる。U9の軽量級から試合が始まる。ポカポカと叩き合うちびっこボクシング、みたいなものを想像していると全然違う。どの選手にもフットワークやガードを中心とした防御技術が根付いている。女子選手の試合も多くあったが、こちらも驚くほどレベルが高い。

 するどいパンチを繰り出しながら、くるくる回るコマのように動き続ける。U9の試合が終わるとU12。このあたりまで来ると、技術だけでいえば、最近観たプロの東日本新人王戦よりレベルが高いんじゃないか、と思える試合がある。

 親御さんやジム仲間たちからの声援も多く、会場は明るい熱気に満ちていた。勝てば喜び、負ければ悔しがる。子供たちは目を輝かせながら、チャンピオンベルトと一緒に記念撮影する。

ボクシングは僕らの隣にあった。

 ずっと、ボクシングを神聖視してきた。ボクシングをするには“理由”がいる。僕にとってリングというものは遠く、崇高な場所だ。自分のような者が、足を踏み入れてはいけない場所なのだ。

 だけど最近、ようやく身に染みて理解してきたことがある。

 ボクシングは僕らの隣にある――。

 人生をかけてボクシングに挑む者もいるが、習い事やダイエットとして取り組む者もいる。不良もいるし、子育てを終えた主婦もいる。井上尚弥が練習する隣で中学生やサラリーマンが練習している、というのは、プロボクシングジムでは普通の光景なのだ。

 さて――。

 何が“さて”なのかと言うと、僕がセコンドをする試合が近づいてきた。数カ月前にセコンドライセンスを取るまでは、こんなことになるとは考えたこともなかった。今でも正直、嘘だろう、と思っている。

【次ページ】 ゆえあってセコンドとしてリングに。

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