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清原和博、もう1つの原点。岸和田
だんじり祭、潜入取材を終えて。 

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

PROFILE

photograph byTakashi Shimizu

posted2018/10/01 17:00

清原和博、もう1つの原点。岸和田だんじり祭、潜入取材を終えて。<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

毎年50万人を超える人が訪れる9月の「岸和田だんじり祭」。スポンサーはなく、すべて祭礼団体の自主運営、自主警備で開催。

岸和田を離れ東京をめざした野球少年。

 数字や形として残る実利より、一瞬の陶酔に突き動かされる。

 筋道立てた理屈よりも、ほとんど蛮勇とさえいえる「男気」たるものを軸に生きる。

 岸和田を離れて東京をめざした野球少年と、だんじり祭が今もつながっていることに不思議な興味がわいた。

 そして今年。

「本当にだんじり祭を知りたいなら、中に入って、実際にやってみなわからんよ」

 そんな声と、眼鏡の奥をキラリ光らせたNumber編集長の颯爽たるゴーサインに背中を押され、岸和田だんじり祭22町の中でも最も荒っぽいとされる漁師町「春木南」の祭りに参加しながら、密着取材することになった。

だんじり祭に感じた、大いなる矛盾。

 およそ、ひと月にわたる現地での取材で感じたことは、とても一言では表現できないが、そうしようと努力するなら、こうなる。

 清原和博という人間は、おそらく、だんじり祭の欠片でできている。

 祭りの男たちは言う。

「俺等から言わしたら、清原は祭りしてないで。だって、高校で祭りやめてるやん。何が『だんじりファイター』じゃ。そもそも、そんな言葉あるんか?」

 彼らの言う祭りとは「宵宮」「本宮」と呼ばれる本番の2日間だけではない。365日のことだ。

 毎月、寄り合いの夜になると、だんじり小屋に隣接している町会館に男たちが集まってくる。漁師、ペンキ屋、運送屋、魚屋……。ブルーカラーの強面たちが缶ビール片手に祭り談義をし、しまいには喧嘩になる。

 9月に入れば、毎晩になる。祭礼費用は町民、仲間内からの「御花」と呼ばれる寄付によって賄われる。

 誰かに強制されているわけでもないのに、時間と、金と、人生を削って、祭りをしている。どの顔も辛く、苦しそうだ。

 ただ、いざ祭りの日になると、男たちは何かに憑かれたように叫びながら、綱を曳き、梃子を握り、死の危険と隣り合わせの疾走に陶酔し、最後には男泣きに泣く。

 この矛盾、どこかで覚えがある……。

【次ページ】 「いつでも(清原の)席は空いているで」

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清原和博

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