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“世界”の強さを知った世界選手権。
日本人クライマーがいま越えるべき壁。 

text by

津金壱郎

津金壱郎Ichiro Tsugane

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photograph byAFLO

posted2018/09/28 11:00

“世界”の強さを知った世界選手権。日本人クライマーがいま越えるべき壁。<Number Web> photograph by AFLO

世界トップ3との明らかな実力差。

 ボルダリングでは前回王者の楢﨑智亜、今季のW杯年間王者のイェルネイ・クルーダーが準決勝で敗退するなか、日本勢では原田のほかに渡部桂太と藤井快も決勝に進出し、渡部が4位、藤井が5位になった。

 メダルには届かなかったものの、この結果は渡部にとって自信を取り戻すキッカケになったはずだ。昨季はW杯ボルダリングの5大会で決勝に残り、南京大会で優勝するなどW杯ランク4位。それが今シーズンはW杯ボルダリングで1度も決勝に進めず、W杯ランクも16位に大きく下げた。苦しいシーズンを送ったが、2年に1度の大舞台で見せたパフォーマンスは、来年巻き返しを期待できるものであった。

 リードでは日本が世界に誇るスペシャリストの是永敬一郎を故障で欠き、昨季W杯で実績を残した波田悠貴も代表から外れたなかで、楢﨑明智が4位、高田知尭が6位、原田が10位と3選手が決勝の舞台に進んだ。しかし、世界トップ3との実力差は歴然で、金メダルには地元のヤコブ・シューベルトが輝いた。

 複合決勝には、ヤコブのほかに、原田、楢﨑智亜、藤井、ヤン・ホイヤー(ドイツ)、アダム・オンドラ(チェコ)が駒を進め、ヤコブがスピード2位、ボルダリング1位、リード2位で2個目の金メダルを手にした。2位にはスピード5位、ボルダリング2位、リード1位のアダム、3位にはスピード1位、ボルダリング4位、リード6位のヤンが入った。日本勢は原田が4位、楢﨑智亜が5位、藤井が6位と、悔しい結果に終わった。

復権したオーストリアの強化方針。

 今回の世界選手権ではオーストリアの男女のエースが結果を残したが、これは単に地元開催のための強化が実っただけではない。

 この5年ほどは低迷したが、それ以前はスポーツクライミングシーンはオーストリアを中心に回っていた。アンゲラ・エイター、デビット・ラマ、キリアン・フィッシュフーバー、アンナ・シュテール、ジョアンナ・エルンストなど、リードとボルダリングの男女で名だたる世界王者を輩出してきた。そのメソッドが、昨年5月にインスブルックに完成したリード、ボルダリング、スピードの人工壁が揃う世界最高峰のトレーニング施設と結びついたことで、復権への第一歩となったのだ。

 今後はユース年代の才能あふれる多くの選手が頭角を現す可能性もあるが、その選手たちが2年後には間に合わなくても、充実した施設でトレーニングを積むヤコブとジェシカが、いま以上の実力へと成長を遂げることは間違いない。

【次ページ】 世界最強クライマーも本気モード。

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