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“世界”の強さを知った世界選手権。
日本人クライマーがいま越えるべき壁。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byAFLO
posted2018/09/28 11:00
すべての課題に笑顔で向き合って。
重圧から解き放たれたヤーニャは、東京五輪の追加種目である複合は試合そのものを楽しんでいたように映った。複合は単種目でのスピード、ボルダリング、リードでの順位を掛け算した数字をポイント化し、ポイントの少ない上位6選手が決勝に進出し、決勝では1日のなかで改めて3種目を行い、それぞれの順位を掛けた数字が複合ポイントになる。
複合決勝でのヤーニャは、スピードこそ5位だったものの、続くボルダリングでは単種目のときに見せた悲壮感はなく、すべての課題に笑顔で向き合って1位。最終のリードではジェシカとの再戦を楽しむかのように軽快に登って完登。同じく完登したジェシカを36秒上回って1位になり、複合ポイントを5点に押さえて初代女王に輝いた。銀メダルは韓国のサ・ソル、銅メダルはジェシカに渡った。
日本勢は、複合決勝に残った選手でスピードの持ちタイムが1位だった野中生萌は決勝で痛恨のスタートミスを犯して4位。野口啓代も1回戦でスタートミスして6位と出遅れた。その後のボルダリングとリードともに野口は3位、野中は4位と挽回できず、複合の最終成績で野口は4位、野中は5位に終わった。
19歳・原田海が初の金メダルに涙。
男子ではボルダリングで19歳の新鋭・原田海が金メダルを獲得した。昨年から参戦するW杯ボルダリングでは、2017年重慶大会の5位や今季の八王子大会6位があるものの、他の選手よりも大舞台の経験は少ないながらも、これまで見せたことのない集中力を発揮して表彰台の中央に立った。
この日の原田は課題にだけ没頭し、観客に声援を求めたのは完登してTOPホールドを両手でつかんだときだけ。その集中力は最終課題まで途切れることはなかった。最終課題のTOPホールドを両手でつかむと、表情から張り詰めていた緊張はほどけ、そのままマットで男泣きに暮れた。