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Number欧州蹴球名鑑の作り方。
選手キャプション「60字」の美学。

posted2018/09/12 17:00

 
Number欧州蹴球名鑑の作り方。選手キャプション「60字」の美学。<Number Web> photograph by Ichisei Hiramatsu

選手名鑑のこの小さな1コマに、時には異様なほどの労力がかかっている。それもまた名鑑の醍醐味である。

text by

涌井健策(Number編集部)

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui

PROFILE

photograph by

Ichisei Hiramatsu

 2350名――。

 この数字は、9月12日に発売されたNumberPLUS「欧州蹴球名鑑」で紹介した、サッカープレーヤーの数だ。

 今年で刊行10年目となる「欧州蹴球名鑑」は、ヨーロッパの主要なサッカー・リーグのクラブ情報を今夏の移籍を踏まえて網羅した選手名鑑だ。イングランドのプレミア、スペインのリーガ、ドイツのブンデス、そしてイタリアのセリエAは全チームを、それ以外の国からはチャンピオンズリーグに出場する16チームをピックアップして掲載している。

 ちなみに今年は史上初めて2部に降格したドイツのハンブルガーSVが掲載されない「名鑑」となった。高原直泰も所属した名門の降格はサッカー史の事件だろう。

 巻頭に掲載された3本の記事や合計14本のコラムも他では読めない記事ばかりなので目を通していただきたいのだが、毎年「欧州蹴球名鑑」の最大の読みどころといえば、掲載した2000名以上の選手をそれぞれ60字、または80字程度で紹介した「選手キャプション」だろう。キャプションとは、写真の脇に掲載する短い文章のことだ。

 この選手キャプション、ひとことでいうと、作成するのがすごく大変である。

 まず、その膨大な数。リーグ所属のクラブを20チーム、各チームの選手を25人とすると、単純計算で1リーグあたり約500名の「紹介文」を書かなければいけない。

 レアル・マドリー、バルセロナ、ユベントス、バイエルン、マンチェスターのユナイテッド&シティといったビッグクラブに所属する選手であれば、欧州サッカー通の方々ならもしかしたら楽しんで書けるかもしれない。

 ただ、2部から昇格してきたばかりのチームやCLに出場する東欧のクラブとなると、もはやどう情報を集めていいのかすら、わからないことも多い。セルビアの「ツルベナ・ズベズダ」にいたっては、正しくクラブ名を言うことすら難しいという始末だ(英語名「レッド・スター」と聞くと、オールドファンは親近感がわくだろうか)。

文字数制限に加えて「ハコグミ」。

 次に書き手を悩ませるのが「60字、または80字」という字数制限だ。この短い文字数の中に、選手の特徴を的確に表現し、なおかつワールドカップでの活躍など今年ならではの旬な話題や、目に留まる個性的な情報を詰めこまなければいけない。そのため、ライターと編集者は「CK=コーナーキック」や「SB=サイドバック」といったアルファベット2文字の略称も駆使しながら選手情報を完成させていく。

 また「ハコグミ」というこだわりもある。ハコグミとは、文章の末尾の「。」が最下段の行の最後までピッシリ埋まり、モジが真四角に収まっている状態のこと。このほうが美しいレイアウトであるとされ、欧州蹴球名鑑ではなるべくハコグミで文章を書いてもらっている。そのための字数調整も生じるため、編集者のこだわりポイントのひとつになっている。

 60文字の短いキャプションには、フリーのライター、編集者たちの「ひと夏」の美学と努力がにじんでいるのだ。

【次ページ】 基本は各リーグ編集とライターの2人体制。

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