マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
吉田輝星が浴びた韓国流ホームラン。
日本で流行らない「引き腕打法」。
posted2018/09/08 08:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Kyodo News
韓国チームの4番キム・デハン中堅手が、ジャパン先発の吉田輝星投手(金足農業)のスライダーを捉えた瞬間、私はすごくなつかしいものを見たような気がした。
2勝同士の韓国、日本の対戦。
実力トップ2ともいわれる両チームの対決らしく、ジャパンは吉田、韓国はキム・キフン。共に「エース」と目される快腕の先発となった。
初回1死一、二塁、吉田輝星が投じた初球のスライダー。キレはともかく、コースは外よりの、そんなに悪いボールじゃなかった。
そのスライダーに、キム・デハンのバットヘッドが届いた。そのままヘッドで拾うように合わせたスイングから、打球は両翼100メートルの広い広いサンマリン・スタジアムのレフトスタンドに届いていた。
右打席から、ほとんど左腕一本で振り抜いたようなスイング。
「前の腕」を大きく使って、スイングの円弧を大きく描き、その遠心力を利用して飛距離を出す。
「後ろの腕」で押し込め! それが“はやり”になっている今の日本の高校野球では、めったに見なくなったスイング軌道。
「意味わかんない」と思ったのでは?
以前は、プロ野球にもこういう打ち方のスラッガーが何人もいた。
パッと思い浮かぶのは、中日ドラゴンズの不動の4番バッターだった江藤慎一さんだが、江藤さんを挙げて、そうだ、そうだと共感してくださる方も、今はそんなにいないのかもしれない。
もっと最近なら、やはり中日の大砲だった山崎武司さんだろう。
打たれた吉田投手も、ええっ! という顔で放物線を追っていた。 あのコースのスライダーを、あの打ち方で、あの方向に大きく持っていかれたのは、初めてだったのではないか。
3ランとわかったあとの、帽子をちょっとアミダにしてほっぺたをふくらますお得意の表情からも、「意味わかんない……」、そんな理解不能な心理が透けて見えるような気がした。