本継!SPORTS BOOKリレーBACK NUMBER
『晩夏のプレイボール』美しく端正な文体で描かれる、“野球のある人生”の物語。
text by
中村航Kou Nakamura
photograph bySports Graphic Number
posted2018/09/08 07:00
『晩夏のプレイボール』あさのあつこ著 角川文庫 520円+税
プレイボールの声と共に、モーターサイレンの音が響き渡る。
これを書いている今は、まさに盛夏で、ちょうど百回目の甲子園大会が行われているのだが、清しく闘う球児たちの姿は美しい。彼らだってただの高校生男子であることはわかっているし、美化したり、妄想を押しつけたりしているわけではない。ただ、年を取れば取るほど、彼らのことを美しく感じる。
甲子園という特殊な場所の、特殊な季節の、特殊なシチュエーションだから、美しく感じるのだろうか? いや、そうではない、ということが、この小説を読めばわかる。盛夏ではなく、晩夏のプレイボール、というタイトルがそれを象徴しているかもしれない。