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井岡一翔は父と決別しても強い。
大みそかの世界戦は実現するか?
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byGetty Images
posted2018/09/10 11:30
井岡一翔の眼光は以前にも増して鋭かった。4階級制覇の現実味が増してきた。
世界タイトルにふさわしい実力を証明。
井岡は初回から試合を支配した。顔面を両グローブでしっかりカバーするいつものスタイルから、生命線のジャブ、ボディブローをリズムよく叩き込む。3回終了間際には右カウンターで実にきれいなダウンを奪った。
その後も先手、先手とアグレッシブに攻め、強打のアローヨに手を出させない。映像を見る限り力強さが増し、今回の試合に向けて初めて本格的に取り組んだというフィジカルトレーニングの成果も感じさせた。
結果は99-90、97-92×2の判定勝ち。ほぼ完勝と言える内容に、本人は反省の言葉を口にしつつ「井岡一翔という存在をこちらで証明できてよかった」とおおむね納得したコメントを発信した。
アローヨを下したということは、井岡がはっきりとスーパーフライ級で世界挑戦するにふさわしい実力者であることを示したと言える。本人が復帰の理由の1つに4階級制覇をあげているから、次戦での世界挑戦に異論をはさむ余地はない。
となると舞台はTBSが全国中継する年末の興行が真っ先に思い浮かぶ。井岡は2011年から'16年まで、6年連続で大みそかに同局放送の世界戦の舞台に立った。TBSは今回のアローヨ戦も深夜とはいえ当日に放送。番組タイトルに“世界前哨戦”と銘打ち、井岡を主役に立てた年末イベントにつなげようという強い意欲を感じさせた。
日本では引退済み、ジムを移籍する必要。
では、アローヨ戦の勝利により、井岡の年末出場、4階級制覇への挑戦というシナリオが確定したかといえば必ずしもそうではない。クリアしなければならないいくつかの問題が横たわっているからだ。
まずは井岡のジム移籍問題である。井岡は日本では引退届けを提出しており、現在は日本ボクシングコミッション(JBC)が発行するライセンスを保持していない。井岡が“外国人選手”扱いで日本のリングに立つことは可能だが(これを規制するルールはない)、前例がないため、日本ボクシングコミッションは、日本で試合をするのなら日本のジムに所属してライセンスの再交付を受けることを望んでいる。