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マイアミで左腕を叩いてから22年。
西野朗の時間と時計へのこだわり。
posted2018/08/22 07:00
text by
木本新也Shinya Kimoto
photograph by
AFLO
22年前。左手に着けていた腕時計には秒針がなかった。後半27分に先制した後は残り時間をとてつもなく長く感じ「早く進め」と念じながら何度も腕時計を叩いた。1-0のまま後半45分を回ったが、左手を見ても秒単位の経過が分からない。快挙を告げる終了の笛が鳴ったのはアディショナルタイム突入から2分30秒後だった。
1996年7月21日。日本がアトランタ五輪グループリーグ初戦でブラジルを1-0で破った“マイアミの奇跡”の話である。グループリーグで2勝1敗の好成績を収めながら、得失点差で決勝トーナメント進出を逃して早々と帰国。その後、西野朗氏は国産時計ブランドから100分の1秒まで計測できるデジタル腕時計を提供されるようになった。
「昔はいい加減な形で時計をしていたが、今は(同じブランドの時計を)20数年も使わせてもらっています。(時計を)叩くものだなと思いました」と冗談交じりに振り返っている。
監督、コーチら指導者は練習や試合で細かく時間を計測する必要があるため、ピッチではストップウオッチ機能付のデジタル時計が基本。アトランタ五輪で時間に対する無頓着ぶりを露呈した西野氏だが、ロシアW杯に向けたタイムマネジメントは素晴しかった。
準備段階からW杯3戦目を見据えていた。
ハリルホジッチ元監督の電撃解任を受けて4月9日に監督に就任。W杯初戦のコロンビア戦まで2カ月強、選手が集まってからの準備期間は約1カ月しかない中、残された時間を逆算してチームを16強に導いた。
「急きょ命を受けての就任だった。短い時間で劇的にチームを変えたい中で、まず時間との戦いがあった。コロンビア戦が数日遅れてくれたらなと思いましたけど、待ったなしで試合は来る。1日1日のスケジュールを組み、その質をどう上げていくか。選手とコミュニケーションを取りながらベストな選択をしていった。葛藤しながらいい準備ができたかなと思う」
開幕直前のテストマッチ3試合で、登録メンバー全23選手を起用。効果的なタイミングで完全オフのレストデーを入れて、家族や友人らとリラックスして過ごせる時間を作った。通常ならチーム作りを急いで、先発を固定するのが定石。
戦術を急ピッチで落とし込むために練習でも多くのメニューを詰め込みたくなる状況だが「コンディション最優先」の方針を軸にして、時間を管理した。準備段階から、グループリーグ第3戦ポーランド戦で先発6人を変更するターンオーバー制を見据えていたのだから、恐れ入る。