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「本気の夏」は何に対する本気か。
高校球児時代の自分と甲子園の距離。 

text by

安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byHideki Sugiyama

posted2018/08/23 07:00

「本気の夏」は何に対する本気か。高校球児時代の自分と甲子園の距離。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

プロを目指す選手、甲子園を目指す選手、どちらも目指さない選手……。みんな含めて高校野球なのだ。

甲子園と引き換えに諦めるもの。

 その程度のモチベーションでやっていたのに、最後の3年の夏は、東・西に分かれる前年の「東京」で、あわやベスト8だったのだから、高校野球はわからない。

 “よそ”はどうだったのか?

 知り合いの記者何人かにも訊いてみた。ただし、間違いなく「甲子園狙い」だったはずの名門、強豪出身の記者は避けた。

「そうですねぇ。うーん、あんまり考えたことないですけど、どうだったんですかねぇ……」

「たしか、予備校の予約とか入れてたから、それほどガチでって感じでもなかったかな、言われてみれば」

「ありえない! 甲子園なんて、どこにあるのかも知らなかった(笑)。今、こんな仕事してることも信じられない」

 意外なほど、冷めた答えがいくつも返ってきた。

「甲子園と引き換えにあきらめなきゃならないものが勿体なくてね。いいかっこするわけじゃないけど、勉強もしたかったし、人並みに恋もしたかったし、映画も見たかった。甲子園? そんなに勿体なくなかったね」

なぜ高校生が野球に没頭するか。

 初めて、理由をわかるように言ってくれる人が出てきた。

「高校野球って、隠れ蓑にしてるヤツもいるでしょ。勉強したくないのとか、苦手なのが、嫌いな勉強するよりは……みたいな感じで野球部やってるの、いなかった?」

 自分のことを言われたようで、ドキッとした。

「高校野球は教育の一環なのに、学校の勉強も、社会勉強も、そんなことやってたら手が届くわけない『甲子園』みたいなもんを“頂点”にしてる。ちょっときつい言い方になるけど、野球しか知らん人間にならんと『甲子園』はない」

 そのへんのことに何となく、高校生の頃から気づいていた、と彼はいう。

 逆に、叶えられなかったが「本気の3年間」を過ごしたという記者は、

「いろんなもの犠牲にした3年間だから、大事にしてるんじゃないですかね、今でも」

 そう言って、ちょっと照れるようにした。

【次ページ】 甲子園に現実味を感じていなくても。

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