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高校野球でMLB式の球数制限を導入?
神奈川の公立高が示したその可能性。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/07/27 07:00
高校野球とエースの熱投は切り離せないものだったが、時代は確実に流れていくのだ。
選手たちは複数投手制を歓迎。
エース大脇はチームの方針をこう受け止めている。
「高校野球は先発投手がずっと投げるイメージがあったんで、この方針を聞いた時はどうなるかなと思ったんですけど、やっていくうちに、ケガをせずにできるので、いいなと思いました。登板後は間隔が空くのでゆっくり調整できるし、疲れなくやれるのもいいと思います」
大脇とエースを争う伊藤孔も、チーム方針に深く頷く。
「この方針を聞いた時はびっくりしたんですけど、菅澤先生が『暑い中で球数を多く投げると、肩にも肘にも体力的にも負担が来るからボールがいかなくなる』という話をしていて、投手として考えたら確かにそうだなと思いました。
投手が5、6人いるので、試合では全員が全力で投げられる。球数の制限はありますが、その分、バッターとの対戦をより楽しめていいかなと感じています。僕らの学年は4人の投手がいるんですけど、その4人がお互いにアドバイスしあったりして、互いに成長できたと思う」
球数制限のマイナスの影響は今のところ感じておらず、むしろ互いに成長してきているため、「後ろに誰かいる」という安心感が全力を出すことに気持ちを向かわせるのだそうだ。
高野連も球数制限を視野に入れているが。
今春のセンバツ前、日本高野連の竹中雅彦事務局長にインタビューする機会をもらった。タイブレークの導入が決まったことを受けてのインタビューだったが、その際に竹中氏は「(タイブレークは)次善の策。将来的には、球数・投球回制限に向かうだろう」と予測を立てつつも、実際の導入にはためらっている印象だった。
推測するに、「球数制限をすると私学に有利に働く。公平性を保てない」ということがあるのだろう。
最近は複数投手制を敷くチームが増えてきているが、私学勢の方が部員の数や質からしてもやりやすく、公立でも彦根東のような名門と言われるチームが多いという事実が気になっているのかもしれない。
その中でこの夏、市ヶ尾がひとつの形を示してくれた。
この事実は、指揮官のマネジメント次第で、普通の公立校でも複数投手制が可能であるということだ。野球の指導に携わる人間は勝利と選手の育成に責任を持ち、取り組むべきだということである。
誰もが異常な暑さを感じていても、何も取り組まなければ変わることはない。
菅澤監督はできる限りのことを実践しようとしてきたのだ。
高校野球に携わる指導者が果たすべき役割とは何かを見せてくれているように思う。