リーガ・エスパニョーラ最前線BACK NUMBER
世界中を驚かせたジダンの電撃退任。
その裏にあるマドリーの特異な事情。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2018/06/06 17:00
トップチームでの監督業は初だったが、ジダンのキャリアは最高のスタートを切った。現場への復帰を楽しみに待とう。
マドリーの世界でも稀有な補強方針。
「マドリーの監督は他チームの監督よりずっと神経をすり減らす。常に注目され、話題にされ、意見されるうえ、すべてを受け入れねばならないからだ」
これは、マドリーを始め国内外で多くのチームを率いた元スペイン代表監督カマーチョの証言である。
今季は、それが特に酷かった。CLを連覇してファンの期待を高めておきながら、リーガの優勝争いから早々に脱落したせいだ。批判の矢面に立ったジダンは選手を守って疲弊し、レガネスに敗れた国王杯準々決勝の夜はスタンドから浴びせられる罵声に気力を削がれた。
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とどめは選手たちのエゴだ。
マドリーは、いますぐ必要ではないけれど「ずば抜けている」という理由でタレントを獲得する世界でも稀有なクラブで、それゆえ監督には特殊な仕事が課せられる。
すなわち、「自分は試合に出るのが当然」と考えるスター選手と、練習で好調をアピールする選手と、勝つために必要な選手をうまく組み合わせて11人を選びつつ、全員に不満を抱かせないという難業だ。
3年目の今年、選手のエゴが噴出した。
ジダンは信頼関係をもって、難事業を進めてきた。個別にアレンジした練習メニューで選手個々のコンディションを整えるなどして、強い絆を築いてきたのだ。
ところが3シーズン目に入ってタガが緩んだのか、ワールドカップが控えているせいか、今季は自分の利益を優先して出場機会を求める選手が次から次へと現れた。CL決勝戦後、2得点してマンオブザマッチに選ばれたにもかかわらず、交替出場に対する不平を唱え、移籍を考えるとコメントしたベイルは好例といえよう。
そうした状況にも、ジダンは「息つく間もなく」対応していたとチーム関係者はいう。「自分を使い切ってしまった」は6年前バルサを去ろうとするグアルディオラが口にした言葉だが、ジダンの心身も同じような状態にあったのだろう。