ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
「2018年の桜庭和志」が目指すもの。
地味な寝技で楽しませる斬新な大会。
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2018/06/05 11:30
プロレス界の救世主となった桜庭和志。グラップリングの世界でも革命を起こす!
総合格闘技の黎明期は凄惨だった。
桜庭和志の登場は、総合格闘技(MMA)史においてもエポックメイキングであった。
UFCの黎明期、まだバーリ・トゥードもしくはノー・ホールズ・バードと呼ばれていたMMAは、とにかく暴力的で残酷な“見世物”のようなイメージを強く持たれていた。
グラウンド状態でも素手(もしくは薄いグローブ)で顔面を殴ることが許される、ほぼノールールの試合は、選手が血だるまになるような凄惨な闘いが頻発。また、寝技でのこう着状態が続くことも多かった。
総合格闘技は、今でこそ地上波のテレビ放送が当たり前のように行われているが、'90年代後半までは、同じプロ格闘技でもK-1のようにわかりやすく明るいイメージではなく、暗く、残酷で、わかりづらい、とても地上波テレビで流せるようなコンテンツではないと思われていたのだ。
桜庭が持ち込んだエンターテインメント性。
そんな常識を覆したのが桜庭和志だ。
普段は常にニコニコと柔和な表情でリラックス、試合前日までテレビゲームで遊んでいたことを公言。そして試合になると、制限の少ない総合格闘技のルールを最大限に活かして、奇想天外な技を繰り出し、強豪を次々と打ち破っていく。
ほぼノールールという“究極の闘い”において、ただ勝つだけでなく、エンターテインメント性を持ち込み、総合格闘技と格闘家、両方のイメージを一新させたのだ。
それができたのは桜庭が、強くなることと同時に、会場に来てくれた観客を必ず楽しませ、満足させることを新人時代から徹底して叩き込まれた、生粋のプロレスラーであったからに、ほかならない。
あの伝説のホイス・グレイシー戦から18年――。桜庭は今年、自身がプロデュースする新格闘イベント「QUINTET(クインテット)」をスタートさせた。