サッカー日本代表 激闘日誌BACK NUMBER
ジャーナリスト木崎伸也が目撃した激闘の瞬間
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byJMPA
posted2018/06/01 10:00
後半39分、ニールのロングスローを川口とケネディが競り、こぼれ球を4番ケーヒルが押し込み、同点。魔の8分間が始まる。
中田と三都主を苦手な役割に押し込め!
ジーコジャパンの布陣は3-4-1-2。中盤の3列目を見ると、左から三都主アレサンドロ、中田英寿、福西崇史、駒野友一という並びだ。バランス的には、左に攻撃が得意な選手、右に守備が得意な選手がいる。
ヒディンクは、その攻撃的な2人に狙いを定めた。本来は右サイドバックのエマートンをあえてボランチに置いて中田英寿と対峙させ、さらに本来は中盤のウィルクシャーを外側に置いて三都主にぶつけた。
そこには明確な意図があった。『敗因と』(光文社)で、ヒディンクは次のように明かしている。
「オフェンスが強いやつは、ディフェンスは不得手なものなんだよ。そして、エマートンのようなパワーのある選手がいて、相手が守りが不得手な場合、(その選手は守備に追われ、結果的にオーストラリアの)アタッカーが1人多めになる。(相手を)苦手な役割に押し込むんだ」
「ウィルクシャーの場合、攻撃力はなくても走り惜しみしないMFだから、相手としては追いかけて走り回るのに疲れてしまう。アタッカーというのは、大抵が攻撃のことばかり考えるもので、守るのは好きじゃない。こういう攻撃の弱みを攻めてやろう――そこが戦略の練りどころだったんだ」
選手を本来とは異なるポジションで起用するのは博打だが、ヒディンクはその博打に勝ち、日本の強みを弱みに変えた。
試合最終盤に用意しておいたパワープレー。
「相手は消耗することで弱くなる」(ヒディンク)
ワールドカップで勝敗の鍵を握るサッカーの真理だ。
罠はこれに留まらない。2つ目は選手交代の奇策だ。
ヒディンクは日本戦に向けた紅白戦で、機動力のあるケーヒル(180cm)、高さのあるケネディ(194cm)、パワーのあるアロイージ(185cm)を順番に投入する練習を行っていた。実際、後半8分にMFウィルクシャーに代えてFWケーヒルを入れてさらにかき回し、後半16分にDFムーアに代えてFWケネディを入れて前線の高さを増し、後半30分にMFチッパーフィールドに代えてFWアロイージを入れてパワーを強めた。もともと188cmのビドゥカが最前列にいるので、最終的に強力なパワープレー布陣になる。
これを最大限生かすべく、ヒディンクはロングスローも特訓した。後半39分、日本の最初の失点は、まさにロングスローのこぼれから生じたものだった。
中田英寿と三都主に苦手なタイプをぶつけてガス欠を早め、プラン通りの順番で選手を投入し、パワープレーで仕留める――この罠によって、日本の守備はラスト8分に崩壊した。