ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹のしかめ面はなぜ消えた?
「言われてみれば……そうっすね」
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2018/05/24 07:00
アメリカでも定番ネタだった「素晴らしいショットを放った松山英樹が不満な表情をする」場面は急激に減っている。
「“困ったときのショット”ができない」
結果とは違う領域で抱えてきた悩み。それが「僕には“基本的な球”がない。だから、“困ったときのショット”ができないというか……。スライスも、ドローも、自信を持って打てるショットがひとつもない」と明かすのだった。
「例えば、ですよ」。松山は語気を強めた。
「300ヤードのキャリーで越えるバンカーが右サイドにあるとします。それを自分の気持ちで『絶対にドローを打てる』、『右のバンカーの方向を向いて、思い切り振ったら越えていく』と思えるかどうか。それも優勝争いをしている18番ホールで、そうやって振れるかどうかだと思うんですよ」
これまではそうはいかなかった。だからメジャーを獲れない、というのとは話がまったく違う。
極限状態で自分の力を疑わない。誰にも負けないと思えるウィニングショットが欲しい。ドローヒッターになるか、フェードヒッターになるかという問題ではない。
どのショットを選ぶにあたっても、自信満々でいられるかどうか。すでに松山のショットが世界トップクラスにあることは結果が証明している。彼は今、そのまた先にある自分の理想を追う段階に入ったということだ。
打った瞬間うなだれる場面が減った。
そんな変化を持った姿勢はいま、松山自身のトレードマークともいえる仕草にも影響を及ぼしている。
かつてはショットを放った瞬間、クラブから手を放してうなだれる。全身に失望感を漂わせつつも、ボールはフェアウェイのど真ん中にあったり、ピンの近くで彼を待っていたり……といったことも多かった。
それがここ最近は、フィニッシュを決めながら、祈るような視線でボールを見送ることが多くなった。
「言われてみれば……そうっすね。それはフィーリングがいい、というのとつながっていると思うんですよ。(狙いと感触の)誤差が少なくなっているのが正しいかもしれない」
本人の手ごたえがどうあれ、結果がものをいうプロの世界だ。松山はまさにその領域で名声を得て、さらに輝かしい将来を期待されている。