ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹のしかめ面はなぜ消えた?
「言われてみれば……そうっすね」
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2018/05/24 07:00
アメリカでも定番ネタだった「素晴らしいショットを放った松山英樹が不満な表情をする」場面は急激に減っている。
「体のフィーリングがいいんですよ」
松山は何かを変えようとしている。それは「自分を肯定して、許容する」といった類の、精神面における変化ではなさそうだ。数か月前までとは格段に違う、手に残るショットの感触を「何年ぶりですかね……プロになった年(2013)以来の良い感覚」とまで具体的に言うのだ。
今、松山自身に期待感を抱かせる「良い感覚」とは何なのか。
その問いに彼はまず「体のフィーリングがいいんですよ」と端的に説明した。
「スイングの時にシャフトやクラブを伝ってくる感触なんかがいい。それがうまく伝わってこないと、ボールが真っすぐ飛んでも、『なんで真っすぐ行ったんだろう』と思ってしまう。でもここ最近は、そんな違和感がないんです」と続けた。
ボールを意のままに操りたい――。一流選手はその願いをかなえているからこそ、そのポジションにいるのだと周りは考える。ただ、松山に言わせれば、プロになってからの5年間は必ずしもそうではなかった。
松山はフェードヒッター? ドローヒッター?
かねて松山は自分が思うプレースタイルと、世間の評価にギャップを感じていた。そのひとつがショットの球筋である。
2016年の終盤、国内外で5試合のうち4勝を挙げた頃も、彼は何度か、ボールが落ち際で右に傾く「フェードヒッター」と称されてきた。
しかし本来、松山が頭に描く理想のドライバーショットは「5ヤード右に打ち出して、ドローして(わずかに左に曲がって)フェアウェイのセンターにキャリーする」ものだった。
それがなぜ世間から逆の評価を受けてきたのか。答えは簡単。「フェアウェイの真ん中を狙って、フェードかドローボール、どちらかになればいい」と、ある程度理想を捨てて、その時々の調子に合わせたショットを選ぶという現実的な戦法をとってきたからだった。
PGAツアーで4シーズンのうちに5勝した。うち2つは世界選手権のタイトルだ。そうであっても、松山は「それは結果論だから」と取り合わない。
「もちろん優勝した時は、その時なりのショットで安定していた。でも、勝ったのは(勝因は)どれもパッティングの出来が大きいわけで」と分析する。