ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
松山英樹のしかめ面はなぜ消えた?
「言われてみれば……そうっすね」
posted2018/05/24 07:00
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Yoichi Katsuragawa
高みを目指して苦悩するのは、彼のライフワークの様ですらある。首を捻り、顔をしかめ、ボールの行方を恨めしそうに見る松山英樹の姿。今やそれは世界のゴルフファンの知るところとなった。
ただ、ここ最近は同じ「悩む」でも様子が少し違う。
マスターズを終え、3週のオフを挟んで戦線復帰した5月。松山の言動にはかつてない変化が見られた。
日本のゴールデンウィーク真っ只中に行われた、シャーロットでのウェルズファーゴ選手権。久々の出場試合の最初のトピックスは、クラブを大幅に変更したことだった。
約1年半ぶりに新しいモデルのドライバーを手に取り、パターも替えた。アイアンとウェッジは同じモデルでもヘッドを新調し、シャフトにも調整を加えた。
直後に以前のモデルに回帰したものもあったが、翌週のプレーヤーズ選手権までに、3番ウッドを除く13本のクラブを、4月までとは違うものを実戦で握ったことになる。
道具選びに厳しい松山が、キャディバッグの中身をここまで一気にリフレッシュさせるのは珍しい。
珍しく、前向きな言葉が並ぶ。
試行錯誤は止まず、ウェルズファーゴ選手権のある朝には見慣れないシーンがあった。スタート前の練習で放つドライバーショットの数は普段は5球前後といったところが、3日目のラウンドを控えたドライビングレンジでは17発も打った。
ティオフ時刻がすぐそこに迫っているというのに、クラブの調整を繰り返す。ヘッドに鉛を張っては剥がし、ネジを緩めて、締めて、カチャカチャと音を立てて道具を弄る。
それでいて、フラストレーションが溜まっているようでもない。まるで、おもちゃを手にする子どものように表情は期待感でいっぱいに見えた。
この試合から松山は3週連続でトーナメントを戦った。結果は優勝争いに届かないどころか、毎週、予選通過に必死になった。
しかし、持ち味としてきたショットに関して言えば、作ったチャンスが少なくてもラウンド後の言葉は「良くなりそうな感触がある」「手応えがある」と総じて前向きだった。
優勝した時ですら、「全然調子は良くなかった」、「納得できない。満足できない」と吐き捨て続けてきた彼にしてみれば、奇妙な様子にも受け取れた。