ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
本当はキン肉マンになるはずだった、
スーパー・ストロング・マシン引退。
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byAFLO
posted2018/05/22 17:00
「平田だろ、お前!」で一躍有名になったスーパー・ストロング・マシン。パワフルな戦いぶりが印象的だった。
楳図かずお漫画をヒントにマスク発注。
本来、キン肉マン計画が中止された時点で、素顔での凱旋帰国に変更される予定だったが、平田がこれを拒否。そのため当初は怪覆面の“設定”がまとまっておらず、「ストロングマシン」という名称は、マネージャーのワカマツが記者に囲まれた際、「この男は、人間じゃない。ストロングなマシンなんだ!」と、アドリブで発言したことから定着。顔全体が覆われた斬新なマスクのデザインは、平田自身が楳図かずおの漫画『笑い仮面』をヒントに、自ら発注したものだ。
その後、マシン軍団は4号にまで増殖。悪のマネージャーに操られる、同じデザインのマスクを被った無表情な“殺戮機械”という設定は、新日本のストロングスタイルを支持するファンからは批判の対象となったが、タイガーマスクや前田日明、長州力など、スター選手が大量に離脱した後、大ピンチに見舞われた新日本を、興行面やテレビの視聴率面で支えたことも事実だった。
マシン軍団の“中身”は、無名レスラーの寄せ集めでもあったが、平田のマシン1号だけは、その実力者ぶりから藤波辰爾のライバルに抜擢される。有名な藤波の「平田だろ、お前!」発言は、その抗争の中、'85年5月17日、熊本大会で発せられたものだ。
機械ではなく感情のある人間として。
このマスクマンの正体を生放送中にバラすという、前代未聞のマイクアピールに至った真相は、のちに藤波自身が「テンパって言ってしまった」と釈明するなど諸説ある。実際は当時、マシン軍団の一員ながら人気が出てきたマシン1号に対し、新日本は素顔に戻した上で手薄になった新日本正規軍(本隊)の一員とすることを画策した。
しかしマシンはこれを拒否していたため、会社の意向を汲んだ藤波が実力行使に出たという説が有力であり、マシン自身もその説を支持している。
カナダ遠征が決まりながら強引にメキシコに飛ばされ、アメリカ転戦が内定したところで帰国命令。キン肉マンへの変身を命じられたかと思えば、その企画が頓挫すると素顔での正規軍入りが命じられる。さんざん会社に振り回され続けたマシンは、“機械”としてではなく感情のある人間として、社命に背いてでも覆面レスラー・ストロングマシンを続ける決断をしたのである。