マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高3・大谷翔平のボールを受けた日。
「超高速変化球投手」という新種。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/04/13 07:00
高3の秋、日本ハムに指名された時の大谷翔平。その後4度の入団交渉を経て入団し、彼の伝説が始まった。
捕手すら見えないのに、打者は……。
スライダーも印象深いが、フォーク(当時はスプリットではなくフォークと言っていた)のすごいことといったらなかった。
「フォーク」だったら、少しは静かにやってくるものだ。それが、やっぱりスライダーと同様まっすぐと同じスピードで突っ走ってきて、やはりホームベースの手前でタテに折れて、右ヒザのレガースを直撃してどこかへ消えた。
くやしいから、強がりで「フォーク、もういっちょう来い!」と叫んだら、さっきよりもっと速いのが来て、カンで捕りにいったらガン! という衝撃があって、ミットのネットの先っぽにやっと引っ掛かっていた。
大谷翔平は「変化球投手」なのだ。
投手が投げ込んでくるボールがいちばん見やすいはずの、正面の低い場所から両目で見ているのに、こんなに“見えない”スライダー、フォークを、高い目線から、しかも横目で見ている打者がバットに当てられるわけがない。
それが証拠に、こっちのプロ野球で投げていた時、日本ハム・大谷翔平投手が変化球をジャストミートされた瞬間を、私は見たことがない。
時々バットの芯で捉えられていたのは、見えないほど速い快速球で、160キロに達するほどの速球を、左中間のいちばん深いところまでも放り込まれてもいた。
捕手の緊張感もすさまじい。
一方で、大谷投手の猛烈な変化球を受け止める捕手たちの“緊張感”もすごかった。
自分で出したフォークのサインのはずなのに、もう落ち着かない。やや中腰の姿勢でミットを構えると、猛烈なショートバウンドを想定してか、体を細かく左右に振りながら待ち受ける。もちろん、絶対止めてやる! の使命感がその“緊張”の大部分だろうが、残りの部分は、きっと「当たったら痛てえだろうなぁ、死なないかなぁ……」みたいな恐怖心だってあったに違いない。
いや、恥じることは決してない。
大谷翔平の変化球を待ち受けるということは、もはやそれぐらいの「決死的行為」であり、高校時代とはいえ同様の体験をした者として、その気持ちはすごくよくわかる。
プロ野球選手だって、人間なんだ。