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ベンゲル、退任に向けた屈辱人事?
アーセナルが剥奪した補強の権限。
text by
粕谷秀樹Hideki Kasuya
photograph byGetty Images
posted2018/04/07 11:00
アーセナルのエンブレムのために指揮を執り続けたベンゲル監督。しかし別れの時は本当に近づいている。
香川らを見出した敏腕スカウトが就任。
2017年11月、20余年にわたるベンゲル体制の終幕に直結するような人事があった。
ボルシア・ドルトムントからズベン・ミズリンタットを引き抜いたのである。
香川真司、ロベルト・レバンドフスキ、ピエール・エメリク・オーバメヤンなどの才能を見いだし、敏腕スカウトとして名を馳せた男が、リクルート部門の責任者に就任した。また2018年2月には、バルセロナからラウール・サンジェイーがやって来た。ネイマール、ルイス・スアレス、トーマス・ベルメーレンなどの獲得に尽力し、移籍交渉においては最高の人材と評価される男が、移籍管理部門のトップに入閣した。
アーセナル着任後、全権を担ってきたベンゲルにとっては屈辱的な人事だ。少なくとも、補強に関する権限は極端に失われる。現場のリクエストは二の次になり、フロント主導の移籍市場戦略が進められる。
シティのように、バルセロナで同じ釜の飯を食ったフェラン・ソリアーノCEO、強化担当部長チキ・ベギリスタイン、グアルディオラの3名が一枚岩であればフロント主導でも問題はないが、アーセナルの場合はベンゲル対ミズリンタット、サンジェイー組のハンディキャップ・タッグマッチである。新たな時代の始まりを意味する人事、と考えられはしないだろうか。
「気力・体力が続く限りは監督業を」
「契約をまっとうする」
「アーセナルを去ったとしても、気力・体力が続く限りは監督業を続けていく。まだ衰えてはいないさ」
ベンゲルのコメントが揺れ始めている。契約が残っている限りはアーセナルに残留する。解雇するのならご自由に。就職先はいくらでもあると、心中はかなり複雑だ。アーセナルの上層部も、クラブ最大の功労者を解雇するのは心苦しい。
サポーターの9割以上がベンゲル退任を訴え、直近2シーズンの不振を踏まえても大きく舵を取るべき時期に来ているのは確かだが、20余年の実績には敬意を示さなくてはならない。双方が納得したうえでの契約解除が、最良の着地点だ。ゼネラルマネジャーとしてベンゲル残留とのプランが浮上する可能性は否定できないものの、フランス人の指揮官が現場から撤退する気持ちがさらさらないことは、先述したコメントでも明らかだ。