“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
前橋育英と流経柏の凄すぎる決勝戦。
高校サッカー離れした“戦術バトル”。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byAFLO
posted2018/01/09 12:00
熱戦に終止符を打った前橋育英・榎本の一撃。このフィナーレに至るまでの戦略は、高校生離れしたものだった。
“大丈夫”の差が徐々に大きくなっていった。
一方、流通経済大柏は左サイドに活路を見出そうとした。
前橋育英の田部井悠が中に入り、後藤田が積極的に上がってくる。それを見て流通経済大柏は、左FW熊澤和希がスペースを常に狙う。またセンターフォワードの安城和哉が左寄りに動き、右MFの菊地泰智が真ん中のポジションに入る。すると奪ったボールを菊地経由ですぐに熊澤と安城に展開した。
この攻防が一進一退の好ゲームを演出していた。後半も膠着状態が続く中、先に動いたのは流通経済大柏だった。50分に熊澤に代えてMF加藤蓮を投入し、56分にはボランチの宮本泰晟に代えてMF石川貴登を入れた。
だが、前橋育英は慌てなかった。
飯島は三本木の先手を取り、榎本も関川を揺さぶり、周囲は連動する。試合は徐々に前橋育英ペースに傾いた。流通経済大柏の菊地は押され気味になる展開を感じとっていた。
「前半から“これはダメ、でもこれは大丈夫”という感じで、お互い消去法のように戦って来たけど、徐々に相手の方がその“大丈夫”が多くなって、余裕ができていた。でもこっちは“大丈夫なのか?”が逆に増えて、劣勢に立たされました」
時間が経つにつれ増大する菊地の危機感。その通り、徐々に流通経済大柏のリズムが出なくなる。
長身FW宮崎を入れても、あえて放り込まずに。
ここが勝負所とみた前橋育英・山田監督は、64分に五十嵐に代えて185cmの屈強なストライカー・宮崎鴻を投入。前線に榎本と宮崎のツインタワーを形成し、飯島を左サイドハーフに配置した。
これに対して、流通経済大柏・本田監督も手を打った。三本木を飯島と対面となる右サイドバックに、右サイドバックの佐藤蓮をシャドーに、宮本優太をアンカーに置き換えた。
しかし、この交代で両者の思惑が大きく食い違ったことが勝敗に直結した。
「大きな選手が入って来てくれた方が、相手が単純に蹴って来てくれるのでやりやすいと思っていたので、宮崎選手が投入されたときは“よし来た! 大丈夫だ”と思っていたのですが……。相手は全然蹴らずに、逆に相手の攻撃の手が1個増えただけでした」
この菊地の言葉がすべてを物語っていた。前橋育英はツインタワーの“真の活かし方”を知っていたのだ。