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ドルトムントが警戒する地方クラブ。
セリエA下位から、2年でEL決勝Tへ!
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2017/12/28 07:00
強面の監督も多いセリエAにあって、懐の深い人心掌握を見せるガスペリーニの存在感は際立っている。ビッグクラブにいつ引き抜かれてもおかしくない。
自分はこのチームにとってオンリーワン、という感覚。
かつてアッレグリがミランを率いていた'11年に、弱冠16歳でCLデビューを果たした大型MFクリスタンテは、その後トップチームでの機会を得られず、3年前に600万ユーロでベンフィカに売り飛ばされた。
パレルモやペスカーラを転々として、今年1月にやってきたアタランタでガスペリーニと出会い、クリスタンテのキャリアは劇的に変わった。
「監督は毎日何か新しい言葉や練習を提案してくれて、こちらが理解するのを待ってくれる。ありきたりな助言じゃなく、1人ひとりに合わせた言葉を投げかけてくれるんだ。選手全員に“自分はこのチームにとってオンリーワンなんだ”と自信を持たせてくれる。これこそ、ガスペリーニが他の監督たちとちがうところだと思う」
得点センスを開花させた彼は、ELでエバートン相手に計3ゴールを上げ、セリエAでもすでに6得点。ミランと対戦したクリスマス前の18節では、古巣が夏に1800万ユーロを払ったDFムサッキオを出し抜いて先制点を上げ、サンシーロを沈黙させた。
アタランタはつねに高次元の”自分たちのサッカー”を求めて、ゲームの重心を30m敵陣寄りに動かすことを考えながらプレーしているが、ELで外国勢との実戦を経験した彼らは攻撃一辺倒ではなく、引くべきときに引き、我慢すべきときに我慢する術を覚えたのだ。
八百長に関与した厄介者も、名将の手にかかれば。
若手育成の健全路線で知られるアタランタには、八百長に関与し長期出場停止処分を受けた古参DFマシエッロを重用する意外な一面もある。
他のクラブから見れば厄介者であっても、実力と費用対効果に鑑みて重用する実利主義と懐の深さは、どこか狂気を孕んだような勤勉さで知られるベルガモの町のクラブ独特のものだ。
清濁併せ呑む器量を備えたガスペリーニは、戦術大国イタリアにあって、智将の評価を揺るぎないものにしつつある。
「イングランドやフランスの上位クラブと戦って4勝2分。イタリアのチームもまんざらではないし、セリエAは勝つのが最も難しいリーグであることは証明できたかなと思うよ」