月刊スポーツ新聞時評BACK NUMBER
「暴力」を意識しなかった日馬富士。
こんなにも遠かった世間と角界の距離。
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byKyodo News
posted2017/12/01 16:50
多くの国民そして相撲ファンは、日馬富士と角界関係者たちのゴタゴタを、どんな気持ちで見てるのか……。
相撲を取材する記者それぞれ、視点が異なる。
『サンスポ』は、貴乃花親方のほうに論点を置いた。
・【記者の目】「人情の機微」感じられぬ貴乃花親方の行動
《この結末に、留飲を下げたのだろうか。》
《問題が発覚した九州場所中(14日)に貴乃花親方は、八角理事長や日本相撲協会執行部から事情聴取を受けた。自ら被害届を提出した同親方に、それを取り下げて示談にしなければ日馬富士の進退が窮まることを告げられた、という。だが、同親方は言下に「そのつもりはない」。その通り、横綱は土俵から消える。》
《暴力は言語道断だ。それにしても、この一連の騒動には「人情の機微」が感じられない。》
《野望を抱くのはかまわない。だが、覚えておいたほうがいい。「智に働けば角が立つ」。》 (大相撲担当・奥村展也)
どうだろう。
ここまで各紙見てきたが、相撲を取材する記者でも視点が異なる。これはまさに「社説」の読み比べの醍醐味と同じだ。
印象的だった日馬富士の「怖いね」の一言。
では、私が読んでいて思わず「そうそう」と言いかけたものを紹介しよう。『デイリースポーツ』の一文である。
・【記者の目】番付編成会議の前に 引き際はここしかなかった
《暴行問題が表面化した14日、宿舎で朝稽古に行く前に事実確認を問われた日馬富士は「怖いね」と、どこか人ごとのように見えた。わずか半月後、引退まで追い込まれるとは、つゆほども思っていなかっただろう。》
この冒頭の文を読んで、まさにあの日、「怖いね」という日馬富士の言葉が印象的だったことを思い出した。
それは11月29日の引退表明会見でのある一言にもつながる。会見で師匠の伊勢ケ浜親方は「なぜこのようなことになったのか、不思議というか、残念でならない」と述べた。この言葉も印象に残った。
というのも、いろいろ報道を読んできてこの「怖いね」(日馬富士)、「なぜこのようなことになったのか、不思議」(伊勢ケ浜親方)こそが、今回の「あちらの世界」と「こちらの世界」の温度差を象徴する言葉だと確信したからだ。