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石川直宏が引退直前に佐藤由紀彦と。
「最後は自分らしく」「ナオのスタイルを」
text by
馬場康平Kohei Baba
photograph byAsami Enomoto
posted2017/12/01 17:00
現在のJリーグを見渡しても、FC東京にとっての石川直宏ほど「バンディエラ」という言葉が似合う選手がどれほどいるだろうか。
石川「ユキさんがこのクラブをどう思ってるか知りたい」
石川「サポーターも、選手も当時とは変わってきている。俺はユキさんから託されたわけではないし、自分で先輩たちの姿を見てこうなりたいと思ってやってきた。今の選手がどう思っているかは正直、分からないところもある。今のサポーターとの距離感がいいのか、悪いのかも分からない。ただ、僕らがいた、あの時代は今思うと良かったなって思える」
――ユキさんもサポーターからひときわ大きな声援を浴びる選手でした。自分たちが残したことが、そうやって彼に受け継がれていったことをどう思いましたか?
佐藤「現役を引退して、2015年にスタンドからナオの復帰戦を見た時に、高揚している自分がいたんだよね。『ああ、うれしいな』ってその気持ちを味わった時に、サポーターってこういう感じなんだろうなって。きっとこの何倍もの想いがあって、それが熱気になってスタジアムにエネルギーを運んでくるんだと思った。
ナオは自分が引退して見てきた試合で、唯一そういうことを感じることができた選手だった。当時はヨッチ(武藤嘉紀)もいてチームも躍動していたシーズンだったけど、空気感が他の選手とは違っていた。サポーターからすると、やっぱりナオはそういう選手なんだなって客観的に思いましたね。それがうれしかったし、引退とともに消えていくのであればメチャメチャ寂しいですよ。でもナオが言ったように、これは教えるものではなくて感じていくものだから。今のナオの背中を見て、誰かが感じて体現していくことがクラブの歴史になっていくのだと思っています」
――では、現在13位と苦戦が続く、今季のFC東京を2人はどう思っていますか?
佐藤「今、現場にいるナオが一番分かっていると思うけど、実際にはどう?」
石川「『FC東京らしい』とか『らしさ』という言葉をよく耳にする。だけど、ユキさんが言う『うちらしい』とはちょっと意味合いが違うのかなって。在籍している選手や、スタッフ全員が本当に『東京らしさ』を深いところで理解しているかというと……。僕らが一緒に過ごした時代なら、最後まで全員で走り抜く、戦い続けるということがベースにあった。それは言葉じゃないんですよね。
以前は、ほかのクラブの選手と話をした時、『FC東京の泥くさく最後まで戦うところが嫌だよね』と言ってくれていた。でもそれだけでは勝つことができないからと、その上に勝つための手段や方法を積み上げようとしてきた。確かに今は技術があって、洗練された選手が増えてきた、そういう新しい力を融合して新たな形を生み出していかなければならないと思う。だけど、そうしたイメージをそれぞれが持てていないし、受け継がれていないことはどこか寂しさを感じる。
自分自身は、この2年けがでピッチから離れてしまって、そういう『らしさ』と呼ばれるモノをつくってこられなかった責任も感じている。ピッチ外からも、もっと伝えられれば良かったのかもしれない。もちろん言葉ではなく、感じてもらうべきこともたくさんあるんです。選手もスタッフも一生懸命やっているし、育成や、普及では結果を残している。でも、ひとつになりきれていない。そのもどかしさがある。それを突き詰めて考えていかないといけない。
『俺は関係ない』とか、『自分の立場で、それを考えることはない』と、思う人がクラブに1人でもいてはいけない。このチームに関わっている限り、誇りを持って戦う覚悟をそれぞれが持たなくてはいけない。逆に、僕はユキさんが今の立場でこのクラブをどう思っているのか、知りたいですね」