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カープの強さを伝える驚きの逸話。
今も語り継がれる黒田、新井伝説とは?
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2017/10/02 11:00
1999年、カープ入団直後の新井。大学通算2本塁打ながら……「将来は4番に」「空に向かって打つ」と己の可能性を信じていた。
北別府から浴びせられた厳しいアドバイス。
「そうしたら『馬鹿、俺が投げている時にこいつらが打ってくれるかもしれないんだよ。それで勝ち星がつくかもしれないんだよ。そういう奴らには頑張ってくれと言うしかない。でもお前は違うだろ。それでお金をもらっている。プロとしてブルペン捕手をやっている。だからそんな甘い考えで話をするな。いい音鳴らして、選手に気持ち良く投げてもらうのがお前らの仕事だ。他に仕事がないからこの仕事をやっているんじゃないんだよ』って。あの北別府さんの言葉っていうのは今も残っています」
水本はそれから歴代エースに愛されるブルペン捕手となり、誰にでも率直にものが言える人間性も買われ、やがてコーチ補佐、ブルペンコーチとなり、昨年、ついに二軍監督となった。
掛布雅之、小笠原道大ら元スター選手が他球団の二軍監督として名を連ねる中、水本のカープは今年、ウエスタン・リーグを制覇した。
「変な話、僕が二軍の監督をやるっていうのは世の中から見れば、奇跡に近いと思うんですよ。実際にそういう風に言われますし、僕もそう思っているんで」
「やはり三村さんのおかげで、今の道があった」
決してエリートではない男たちが汗とともに奇跡を起こす。
ベタで、泥臭くて、恥ずかしくなってしまいそうなストーリーも、不思議と赤いユニホームのもとでは照れずに語れる。そういう伝統がこのチームにはある。二軍に息づく汗を惜しまない風土が、今のカープの強さにつながっているのか。
そして今回、水本にはその根幹を育てた人物についての話を聞きたかった。
三村敏之。
享年61。
カープ黄金時代のいぶし銀にして、'90年代後半、悲劇の監督となった人物である。
「いろいろな人にお世話になった中で、やはり三村さんのおかげで、今の道があったのかなと感じます。今、緒方が監督で優勝するのも何か意味があるんだろうな、と」――。