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凱旋門賞は歴史的名牝の独壇場か?
サトノ×池江厩舎の調整力に期待。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byAFLO
posted2017/09/30 08:00
凱旋門賞の大本命がエネイブルであることは動かない。しかし、人気馬がマークされて苦しむのもこのレース。結末やいかに。
池江厩舎の大一番への調整能力は極めて高い。
もともとサトノダイヤモンドは、1年前の菊花賞で、ディープインパクト産駒として初めて平地芝3000m以上での勝ち鞍を挙げるなど、ドーンと飛び抜けた仕事をやってのける力がある。その力は、舞台が大きくなればなるほど、純然たる競走能力と同じぐらいか、それ以上に大切になってくる。
池江厩舎の調整能力の高さは、これまで嫌というほど見せつけられている。
また、池江調教師は「凱旋門賞を勝って、父の池江泰郎元調教師を、勝ち馬関係者だけが乗れる馬車に乗せることが夢」と公言するほど、凱旋門賞制覇に力を注いでいる。
騎乗するクリストフ・ルメールにとっては、これが10度目の凱旋門賞参戦となる。ディープインパクトが3位入線後失格となった'06年、プライドで2着になったのが最高の成績だ。'15年に日本の騎手となり、母国とは縁遠くなったのかと思いきや、昨年はマカヒキ、今年はサトノダイヤモンドと、2年連続凱旋門賞で有力馬に騎乗するのだから、やはり何かを持っている。
サラブレッド、特にサトノダイヤモンドのように競走能力が高くて頭のいい馬ほど、そうした人間の思いに応えようとする。強く願えば夢が叶うという簡単なものではないとわかっていても、ひょっとしたら――と期待したくなる。
当日は雨という予報だが、この馬としては降らないほうが望ましい。自分の能力や状態以外の部分に左右されるのは、勝負事ではあまりよくないことなのだが、「運」を持っていない馬がGIを勝てるわけがないし、そもそもここまで来ることができていないはずだ。
今回はフォワ賞のように、直線で見せ場なく終わることはないだろう。
エネイブルがまともに走ったら厳しいか……。
しかしサトノダイヤモンドが日本で見せてきたようなパフォーマンスを発揮したとしても、エネイブル(牝3歳、父ナサニエル、英ゴスデン厩舎)がまともに走ったら、互角にやり合うのは難しいかもしれない。
古馬の強豪牡馬たちをなぎ倒したキングジョージVI世&クイーンエリザベスステークスを含めてGIを4連勝中。その4戦で2着につけた合計着差が20馬身というのは普通ではない。オルフェーヴルとキズナを寄せつけなかった女傑トレヴ級かそれ以上の器だろうが、今年から凱旋門賞の3歳馬の負担重量が変わり、昨年より牡牝とも0.5kg重くなる。トレヴがオルフェを5馬身突き放したときは54.5kgだったが、エネイブルは55kgを背負う。
これまでの走りを見る限り0.5kgが影響するとは思えないが、こういう馬でも負けることがあるのが競馬の怖さであり、面白さでもある。ランフランコ・デットーリとのスーパーコンビによる圧巻の強さに酔いしれてもよし、世紀の大波乱があってもまたよし、といった気持ちで見守りたい。