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フルスイングしたら三振は必要経費?
王貞治の境地は、現代では不可能か。 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byHideki Sugiyama

posted2017/09/25 11:00

フルスイングしたら三振は必要経費?王貞治の境地は、現代では不可能か。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

広島の新井は306本塁打、1667三振。300本以上の本塁打だけで超一流であることは間違いないが……。

王さんは三振よりもホームランが多かったシーズンが5回!

 NPB史上シーズンに30本塁打以上打って、本塁打数が三振数を上回った、つまりSO/HRが1.0以下だったのは17例ある。そのランキング。

1977年 王貞治   0.74 (巨人 50本塁打 37三振)
1985年 落合博満  0.77 (ロッテ 52本塁打 40三振)
1973年 王貞治   0.80 (巨人 51本塁打 41三振)
1963年 長嶋茂雄  0.81 (巨人 37本塁打 30三振)
1950年 別当薫   0.84 (毎日 43本塁打 36三振)
1972年 長池徳士  0.88 (阪急 41本塁打 36三振)
1984年 ブーマー  0.892 (阪急 37本塁打 33三振)
1972年 王貞治   0.896 (巨人 48本塁打 43三振)
1974年 王貞治   0.898 (巨人 49本塁打 44三振)
1986年 ブーマー  0.90 (阪急 42本塁打 38三振)
1976年 王貞治   0.918 (巨人 49本塁打 45三振)
1950年 藤村富美男 0.923 (阪神 39本塁打 36三振)
1989年 ブーマー  0.925 (オリックス 40本塁打 37三振)
1971年 長池徳士  0.925 (阪急 40本塁打 37三振)
1949年 藤村富美男 0.96 (阪神 46本塁打 44三振)
1973年 張本勲   0.97 (日拓 33本塁打 32三振)
1950年 西沢道夫  0.98 (中日 46本塁打 45三振)

ストライクはホームラン、ボールは振らない。

 1977年の王貞治は37歳。円熟期を迎えていた。50本塁打を打ったのはこれが最後だ。三振数はキャリア最多から比べれば3分の1近くにまで減っていた。

 この時期の王に対する投手は、攻めようがなかっただろう。ストライクは本塁打する、ボールは打たない、左打席で右足を上げてぴたっと静止する姿は「木鶏(闘鶏で最強の鶏は木彫りの像のように動かないと言われた様)」に喩えても良い。

 王はこのランキングに5回顔を出している。単にホームランを量産しただけでなく、打撃を極めたと言っていいだろう。

 ランキングには'73年、'74年の王貞治、'84年ブーマー、'85年の落合博満と三冠王が4例含まれている。

 長打力、勝負強さ、そして確実性を兼ね備えた三冠王は、球を見極める能力も極限に達している。めったに三振もしなくなるのだ。

 MLBでも1934年、三冠王を獲得した鉄人ルー・ゲーリッグは49本塁打31三振、SO/HRは0.63を記録している。

 東西問わず、打撃の行きつく境地はこういうものではないか?

【次ページ】 ホームランと三振の比率で最高は王さん、最悪は……?

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