酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
フルスイングしたら三振は必要経費?
王貞治の境地は、現代では不可能か。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/09/25 11:00
広島の新井は306本塁打、1667三振。300本以上の本塁打だけで超一流であることは間違いないが……。
柳田、吉田などプロにもフルスインガーは大勢いる。
NPBにもフルスイングが売りの選手がたくさんいる。ソフトバンクのギータこと柳田悠岐は、188cm93kgの鉄躯をしならせて思い切りバットを振る。周囲の空気まで揺れそうな凄まじさだ。
オリックスの吉田正尚は、173cm87kgの短躯を目いっぱい旋回させてバットを振る。「いじらしい」という言葉が浮かんでくる。フルスイングがあまりにもすごいため、腰痛で何度も戦線離脱しているが、今年も二桁本塁打を打った。
柳田も吉田もフルスイングの報酬として本塁打を量産しているが、三振も多い。柳田は31本塁打122三振、吉田は11本塁打25三振。
仮に三振数が本塁打の何倍あるかという数値をSO/HRとすると今年の柳田は3.94、吉田は2.27。スラッガーは本塁打に数倍する三振を喫するのが当たり前だ、ということになる。
「三振が怖くてホームランが打てるか」って?
「三振が怖くてホームランが打てるか! けっ」という結論になりそうだが、「ちょっと待っとくれ!」と言いたくなる。
野球史を紐解くと、打撃をさらに極めて「本塁打は打てども三振はせず」という境地に至った打者がいる。
NPB史上最多本塁打は、868本の王貞治。これは誰でも知っている。
王は1959年、早稲田実業から巨人に入団。清宮幸太郎のはるか先輩にあたる。入団当初から英才教育を受けたが、なかなか結果が出なかった。
1年目は7本塁打に対し72三振、SO/HR は10.29、2年目は17本塁打で101三振、SO/HRは5.94。文字通り「三振かホームランか」の荒っぽい打者。「王、王、三振王!」というヤジも飛んだという。
王は1962年に荒川博打撃コーチのアドバイスで一本足打法に変えて本塁打を量産するが、導入当時は三振も多かった。1962年は38本塁打、99三振、SO/HRは2.61だ。
しかしこの打法が完成に近づくとともに、王は「ホームランは打つが、三振はしない」究極の境地に至るようになる。