酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
フルスイングしたら三振は必要経費?
王貞治の境地は、現代では不可能か。
posted2017/09/25 11:00
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Hideki Sugiyama
「ここでやっちゃいけないのは三振ですね」
U-18ワールドカップの中継を見ていたら、解説の横浜高校の渡辺元智元監督がそういった。侍ジャパンは1死一、二塁、そうか、三振はダメなんだ、と改めて思った。
アメリカでも日本でも、三振は「何も生まないリザルト」ということになっている。ゴロやフライならエラーの可能性もあるし、走者を進めることもできる。
三振はボールがインフィールドに飛ばないから、エラーも期待できないし、走者を進めることもできない。唯一振り逃げで生きる可能性はあるが、それを狙って空振りする打者はいない。「三振してこい」と言われるのは、打撃が不得意な投手くらいだ。
三振はそれほどダメな結果ではあるが、近年増えつつあるのだ。
60年前の1957年、NPBのK/9(9イニング当たりの三振数)は5.24だったが、30年前の1987年には5.80になり、今年は9月19日の時点で7.40だ。最悪のリザルトであるはずの三振が、どんどん増えているのだ。
投手の落ちる球、そしてフルスイング。
原因はまず、投手が進化したこと。昔の投手は速球で三振を取ったが、今の投手はフォーク、スプリッター、サークルチェンジなど落ちる球で打者から空振りを奪う。打ち気に逸る打者は、わかっていてもバットを振ってしまう。今の投手は多彩な「マネーピッチ(決め球)」を駆使して打者を苦しめているのだ。
もう1つは、打者の姿勢が変わったこと。日本野球では昔から「球に逆らわない」、「当てに行く」、「走者を進める」打撃が良しとされていた。打ち上げるような打者は邪道。
終戦後、青バットでホームランを連発した大下弘は、ぽんぽん打ち上げるので「ポンちゃん」と言われたが、それは決して誉め言葉ではなく「勝手な打撃をする」という揶揄が入っていたという。
しかし、昨今はフルスイングが奨励される。U-18ワールドカップでも清宮幸太郎が木製バットを振り切って本塁打を打っていたが、最近は高校野球でも「フルスイングできる人はしてよろしい」ということになっているようだ。