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メイウェザー対マクレガーを考える。
あの試合は“ボクシング”だったのか。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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posted2017/08/31 11:00

メイウェザー対マクレガーを考える。あの試合は“ボクシング”だったのか。<Number Web> photograph by AFLO

1試合でファイトマネーとして、メイウェザーが330億円、マクレガーが110億円を得たと言われている。

「36分間で300億稼ぐチャンス」と言い放つ。

 さらに今回は大きな嫉妬心も心境をより複雑にさせた。あまり歓迎したくないイベントが、世界的には大きな注目を集め、通常の世界タイトルマッチでは考えられないような、とてつもない富を生み出すからだった。

 メイウェザーは涼しい顔で言い放った。

「もし36分間で3億ドル(約325億円)、3億5000万ドル(約380億円)を稼ぐチャンスがあったら、それをやらない手はない」

 良心的ボクシングファンは心をかき乱されたまま、恐る恐る試合開始のゴングを聞いた。そしてパソコンの画面を通じて始まった試合は、ネバダ州アスレチックコミッションが認定した公式戦ではあったけれど、それは私たちがこれまでに数多く目にしてきたボクシングではなかった。

何より目を引いた“緊張感のなさ”。

 何より目を引いたのは、メイウェザーの“緊張感のなさ”だ。2年のブランク明けで40歳となったメイウェザーは衰えていたのかもしれないし、準備不足だったのかもしれない。

 しかしそういったことよりも、本来であればリングを覆いつくすはずの勝利へとか執念とか、勝利を目指すためのあくなき努力とか、相手の戦闘能力を無力化するためのギリギリの戦略とか、そういったものはどこにも見当たらなかった。「ボクシングではない」とはそういう意味である。

 総合格闘技選手のマクレガーにボクシングのスキルを期待するのは、最初から無理な話だ。それでもマクレガーは必死に足を動かし、時にトリッキーなパンチをメイウェザーに浴びせて、試合を成立させようと試みた。しかし徐々にスタミナが切れ、最後はメイウェザーが連打を浴びせて、主審がTKOを宣告した。

 ロサンゼルス・タイムズ紙の契約記者、ビル・プラスチェク氏が同紙電子版に記したコラムから引用する。

「リングの上ではほとんど何も起こらなかった。それはボクシングというよりも、毒舌と演出に彩られた2カ月に及ぶプロモーションのエンディングのようだった」

【次ページ】 UFCのトップは、今後のボクシングへの参戦に否定的。

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