ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
メイウェザー対マクレガーを考える。
あの試合は“ボクシング”だったのか。
posted2017/08/31 11:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
AFLO
ボクシングで5階級を制覇して無敗のまま引退したフロイド・メイウェザー(アメリカ)と、総合格闘技UFCの現役チャンピオン、コナー・マクレガー(アイルランド)のボクシング試合が26日(日本時間27日)、ギャンブルの街ラスベガスで行われた。
異色対決として話題を呼び、世界中の視聴者が熱い視線を注いだ一戦とは、いったい何だったのだろうか。
メイウェザーよ、お前もか……。この一戦が決まったとき、「がっかりした」と感じたボクシングファンは、私一人だけではなかったと思う。
それはボクシングの元世界王者がその肩書きを利用され(元王者からすれば肩書きを生かして)、キックボクシングの試合に出場する、というニュースを耳にしたときの感覚と似ていた。
年老いた元王者が若きキックのホープにいいようにあしらわれ、敗北と、幾ばくかのファイトマネーと、寂しげな苦笑いとともにリングを降りる。ボクシング時代の栄光を知っている者にとっては、なんとも言えない、哀れで物悲しい、胸が苦しくなるようなシーンである。
ボクシングルールに格闘家を招く形式。
もちろん今回のメイウェザーは、キックボクシングに駆り出された過去のチャンピオンとはケースが異なる。メイウェザーは極端に力が落ちて引退を余儀なくされたわけではない。49戦無敗のまま自らグローブを壁に吊るしており、不敗伝説はいまだ健在だった。
何よりマクレガーとの試合はキックでも総合でもなく、ボクシングルールで行われるのだという。自らの土俵にプロボクシング経験ゼロの格闘家を招くというのだから、メイウェザーがみじめな姿をさらす可能性は低いとも思われた。
それでもなお、ボクシングのトップ選手として0コンマ何秒のタイミングと、わずか数センチの距離を操り、数々の強者たちの挑戦を退け続けたあのメイウェザーが、何かのアトラクションと思われるような“試合”に出場するのは、正直なところいい気持ちがしなかった。