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女子選手が必ず直面する思春期問題。
伊藤華英が語る生理と競技の関係。
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph byAFLO
posted2017/07/26 07:00
伊藤華英さんは10代後半で日本代表に入り、10年以上にわたってトップ選手として活躍した。
アスリートは、トレーニングで月経が止まることも。
この症状、実は「月経前症候群」通称「PMS」というそうだ。水泳のパフォーマンスにも影響はあったが、適切な対処ができればだいぶ改善できるようになった。
選手が体調の変化を感じたときに、このことが広く認知されていれば、と思う。
所謂生理痛や、過多月経による貧血などで悩んでいる選手も少なくない。強い月経痛は「月経困難症」と呼ばれ、将来的に子宮内膜症を引き起こすこともあるという。
さらにアスリートには、過酷なトレーニングによる無月経という問題もある。「月経がないから楽」と安易に考えるわけにはいかない。無月経とは3カ月以上月経が停止している状態を表し、そのうち運動が原因であるものを「運動性無月経」という。
その最大の原因はエネルギー不足と言われていて、過度な食事制限やオーバートレーニングによって引き起こされる。体重を減らすためのトレーニングなどでエネルギー不足が続くと、女性ホルモン分泌量が低下する。中でもエストロゲンは骨量の維持に関わっているので、運動性無月経は骨密度の低下につながる。そして、弱くなった骨に運動負荷がかかることで、疲労骨折の原因になってしまうのだ。
リオ五輪では、中国選手の発言が賞賛された。
しかし今は、これらの症状は婦人科できちんと診断してもらえば、治療が可能になった。
私も10代までは、何となく自分にとってベストの対処方法が分からず、悩んだりもした。その後、少しずつ自分の体重増加のタイミングや、食欲増加の理由、トレーニングの状況を考えられるようになった。
大会の前にプレッシャーがかかっている時や精神的に辛い時も、自分がおかれた状況を客観的に把握出来るようになった。
リオ五輪で、中国人競泳選手の傅園慧(フ・ユアンフイ)選手が400mリレーのあとに「生理中で自分の泳ぎができず、チームメイトに謝った」と発言したことが話題になり、「苦しい状況でよく頑張った」と賞賛されると同時に、まだスポーツ界において生理は選手が話しにくい問題であることも浮き彫りになった。
女性の身体は繊細だが、もう「我慢する」という時代ではなくなったと感じる。科学、医療の発達もあり、知識を身につける環境は多くあるだろう。
これから先、ますます女性アスリートの活躍の場面は多くなっていく。女性アスリートの輝きの根底には、様々な身体の変化を乗り越えている強さがあるのかもしれない。彼女たちが自分らしく、強くしなやかに輝いていけるように祈っている。