ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
桜庭和志は、プロレスファンの光だ。
アジア初のUFC殿堂入りが誇らしい。
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byGetty Images
posted2017/07/15 08:00
リング上ではあんなにも大胆でサービス精神に溢れているが、リングの外ではシャイさを隠さない。桜庭和志は、そういう男なのだ。
「プロレスラーは本当は強いんです」という伝説の名言。
UFCにおける黒帯柔術家の初のタップアウトという、この大番狂わせに会場は一気に爆発。そして試合後、オクタゴン内でのインタビューで桜庭は、はにかみながら歴史に残る発言をした。
「プロレスラーは本当は強いんです」
この言葉に、当時のプロレスファンがどれだけ救われたことか。
自分の愛したジャンルが信じられなくなり始めていたプロレスファンに、桜庭は自信を取り戻させてくれたのだ。
文字通りプロレス界の救世主だった。
その後、桜庭はPRIDEのリングで、グレイシー一族を始めとした強豪を、次々とその独創的な戦いで倒していき、総合格闘技人気の礎を築いた。それが今回のUFC殿堂入りにつながった。
勝負と観客を両立させる、プロレスラーの魂。
いま、桜庭は世界中から尊敬を集めるMMA界のレジェンドだ。しかし、桜庭は自らの“出自”を隠そうとはしない。
UFC殿堂入りスピーチの中で桜庭は、「僕はアスリートであると同時に、プロレスラーです。プロレスから学び、プロレスから吸収した細胞がDNAとして染み付いています。お客さんに伝わる試合をすること、それがプロレスラーとしての僕の矜持です」と、語った。
日本以上にプロレスとMMAがしっかり別物として認識されている海外で、「プロレスラー」を強調するこの発言は、正直MMAファンの“ウケ”は良くないはずだ。
それでも桜庭は語る。
「ぼくが本当に受け継いでもらいたいのは、技術よりも心です。プロとしての誇りです。『お客さんに伝わる試合をすること』が、これからの未来を創るファイターへ送る、ぼくからのメッセージです」
プロレスの道場で育った桜庭は、強さを磨くと同時に、会場に来たお客さんを満足させる闘いをすることを徹底的に叩き込まれてきた。そして桜庭はその姿勢のまま、総合格闘技で大活躍。勝つだけでなく、お客さんを満足させる闘いを続けることで、総合格闘技の楽しさを多くの人たちに知らしめた。
総合格闘技人気とは、勝負論と観客論を両立させる、プロレスラー桜庭和志だからこそ、生み出せたものなのだ。
だからこそ、プロレスファンには桜庭の殿堂入りを誇りに思ってほしい。
1997年の桜庭和志。彼なくして、こんにちのプロレスも格闘技もなかったのだ。