酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
張本勲は、打者として本当に偉大だ。
あっぱれ!な記録5つをほめ殺す。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2017/06/14 11:00
前人未到の3000本安打を筆頭に、本当にすごい選手だった。それ以上は、何も言うまい……。
あっぱれ!その5。打撃妨害での出塁が10回!
最後にトリビアな記録を。
打撃妨害とは、打者が打とうとしたときに、バットがミットに接触した際に宣せられる。打者は一塁に進み、打席は増えるが打数はつかない。
狙って取るものではなく、偶然とされるが、張本勲はこの打撃妨害が10回もある。ONも野村克也も、一度も記録していない。
この記録にはオーソリティがいる。中日で活躍した外野手の中利夫だ。この選手は首位打者、盗塁王も獲得しているが、実に21回も打撃妨害で出塁している。捕手寄りに立ってぎりぎりまでバットを振らなかったからだとされる。
2000安打以上では、張本勲の打撃妨害10は山内一弘と並ぶ多さだ。
ちなみに松井秀喜は、エンゼルス時代の2010年に1年で4回も打撃妨害を記録している。
故山口瞳が「張本は、どうしても出塁したいときに奥の手を使った」と書いていたように記憶する。
中利夫、山内一弘、張本勲、松井秀喜に共通するのは、野球に対する執念深さだ。野球の裏の裏まで知り尽くした選手ならではの「奥の手」だったのではないか。
打撃妨害はめったにないが、現役選手がこの記録で出塁した時に、張本勲は「あっぱれ!」というか「喝!」というのか、見ものだ。
現役時代から、ほれぼれするようなヒールぶりだった。
1975年8月5日、高校生の私は日生球場で近鉄、日本ハム戦を見ていた。6500人という発表が空しいほどの薄い観客席。すでにスポーツ紙には「張本、巨人移籍?」の見出しが躍っていた。
一塁側の近鉄ファンから「はりもとおー、お前は悩みを持っている。試合どころやないはずや!」のヤジが飛んだが、そのあたりをちらっと見た張本は、柳田豊から本塁打を打った。何とも憎たらしい、しかしほれぼれするようなヒールぶりだった。
張本は、左打席で高くバットを構えると、テークバックを一切せず、しかもノーステップでそのままバットを振り下ろした。
巨人に移ってからよくテレビに映るようになったので、草野球で真似をしたが、難しかったのを覚えている。
このおじさんに関するいろんなことを頭に思いめぐらしながら、私は日曜日の朝を迎えている。
来週も、「サンデーモーニング」を見ると思う。あの四角い顔を見てむかむかするために。