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五輪マラソンの新選考方法は上々だ。
「大人の事情込み」でほぼ最高の形。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJMPA
posted2017/04/24 08:00
リオ五輪の男子マラソンでは、日本人最上位は佐々木悟の16位。トップから5分、入賞からも2分以上離れていた。この差は詰まるのか。
選考トラブルは、マラソンへの興味を支えていた。
また、1992年のバルセロナ・オリンピックの女子では、有森裕子と松野明美のどちらが選ばれるべきか、侃々諤々の論争に発展した。
ハッキリ書いておきたいのは、こうした“トラブル”が起きたことで、マラソンへの興味が大いに喚起されていたことだ。マスコミは選考の透明性を訴えながら、こうした話題で利益を得ていたことを忘れてはならない。
建前と本音は、どこにでもある。
選考の透明性を最優先するならば、アメリカのように一発レースで選考するのがクリアだ。アメリカはスポーツに限らず、人種が多様であるため、制度の公平性を担保するために最大限の努力を払う国である。
しかし、日本陸連としては1987年の福岡国際マラソンで失敗した苦い思い出がある。
当時の男子マラソン界は瀬古だけではなく、代表に選ばれた中山、新宅永灯至(当時は「雅也」)など充実した戦力を誇っており、一発で選考した方がスッキリすると思われていた。
もし、このとき瀬古が万全の状態で出場していたならば、日本の選考システムは一発選考が続いていたかもしれない。
マラソン大会のスポンサーに配慮はしたが。
有力選手のケガのリスクを考えた場合、一発選考は怖い。
そこで今回、MGCレースという新しいビッグイベントを設けつつも、そこでは2枠だけを埋めるという判断を下した。まさに、30年前の亡霊が生きているのだ。
一本化できなかったことと、最後のひと枠を設けたことに関しては、日本陸連の瀬古利彦プロジェクト・リーダーが、「大人の事情」とハッキリいった。
これは既存の大会、その主催者である新聞社、放送局への配慮である。
もしも、東京オリンピックにつながらないレースとなったら、大会の格が落ちてしまい、経済収益も落ちてしまう。