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フェラーリ復活劇とタイヤの超進化。
F1開幕戦、新時代を凝縮した一戦に。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2017/04/07 08:00
自身通算43勝目を飾ったベッテル。やはり跳ね馬の躍動はF1全体を活気づける。
タイヤ性能が増し、コーナーでは20~30kmアップ。
タイヤのグリップ力が増し、性能劣化しにくくなったことは、コーナーリングスピードを見てもわかる。開幕戦では、低速コーナーで約20km/h、高速コーナーでは約30km/hも昨年より通過速度が上がっていたのだ。このスピードアップによって、コーナーリング時の横Gも上がった。
ドライバーへの負担が大きくなったのは、肉体的な部分だけではない。コーナーリングスピードが上がったことで、コーナーリング時のドライビングにより正確性が求められるようになったのだ。ちなみに開幕戦の予選ではこんなハプニングがあった。優勝経験もある名手ダニエル・リカルド(レッドブル)が中高速コーナーでスピンし、クラッシュしたのである。
グリップ力が高いタイヤはコーナーリングスピードが上がるだけでなく、グリップ力を超える瞬間の速度も高くなっているために、限界を超えた後の対処が難しくなっているのだ。それは、クラッシュしたリカルドだけでなく、多くのドライバーがテスト時から「今年はコーナーを攻めるのが難しい」と語っていることでもわかる。
「レースを走り終えた後の気分は昨年よりもいい」
だがそれこそが、F1ドライバーたちが求めていた新しいF1だった。開幕戦を5位でフィニッシュしたフェルスタッペンは言った。
「コーナーリングスピードが昨年よりも上がって、正直大変だけど、レースを走り終えた後の気分は、昨年までよりもいいね」
今年のF1が昨年までと違うのは、マシンが速くなったことだけではない。冒頭のように、フェラーリが復活したこともまた新鮮な驚きだった。フェラーリの優勝は2015年シンガポールGP以来、約1年6カ月ぶりのこと。開幕戦での優勝となると、なんと2010年以来、7年ぶりだった。
この年、フェラーリは王者にはなれなかったが、最終戦までタイトル争いを演じた。つまり、開幕戦で王者メルセデスAMGと堂々と渡り合った今年のフェラーリの速さは、本物だといっていいだろう。