野ボール横丁BACK NUMBER
甲子園で21点は取る方だって辛い。
センバツ21世紀枠に足りない視点。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2017/04/06 07:00
多治見相手に21得点を挙げた報徳学園。21世紀枠相手に対しても全力で戦ったからこそのスコアとなった。
「嫌になって、野球をやめちゃうでしょ?」
過疎化が進む北海道の辺境地の高校相手だと、コールドを採用していても、20点差、30点差がついてしまうことも珍しくない。佐藤が続ける。
「バントでアウトをあげんの。それで、できるだけ10-0、ちょうどでコールドで勝つ。でないと、あいつら、嫌になって、野球をやめちゃうでしょ?」
日本では最後まで手を抜かないことこそが礼儀だとする傾向が強いが、佐藤の配慮を失礼だと言えるだろうか。私は強者の「武士の情け」であり、「思いやり」であるように思えた。
もちろん、これまで甲子園では数々の逆転劇が演じられてきた。何点とっても「絶対」はないという言い分もわかる。しかし、大逆転は、さほど実力差がない場合に限る。明らかな力量差があったら7点差、8点差をひっくり返すことはほぼ不可能だ。
「どんだけ点が取れちゃうんだろう」という心配。
あの試合、不来方側に立てば「どんだけ点を取られてしまうのだろう」と不安だったろうが、静岡側からすれば「どんだけ点が取れちゃうんだろう」と心配だったのではないかと思うのだ。
しかも21世紀枠で選ばれたチームは、主戦投手が1人しかいない場合がほとんどだ。甲子園ではコールドがないため、点を取れば取るだけ試合時間は長くなり、故障のリスクをともなう。それを承知で攻め続けなければならないチームは酷である。
ただ選抜はレベルが高いゆえに、どうしてもお馴染みの強豪私学ばかりになりがちだ。そんな中、21世紀枠の存在は貴重でもある。私も不来方のような魅力的なチームを甲子園で見てみたい。しかし、やはり3チームは多過ぎるのではないか。大会の緊張感が損なわれかねない。