フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦がフリーで見せた王者の気迫。
宇野2位で初メダルとなった世界選手権。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2017/04/03 17:00
フリーの演技が終わった瞬間……羽生が片手を天へ向けた。ライバルたちも納得せざるをえない、まるで優勝が決まったような瞬間だった。
王座奪回を狙う羽生が、予想外の5位スタートに。
羽生結弦は『レッツゴークレイジー』のメロディにのって、スプレッドイーグルからの4ループを完璧に着氷。だが4サルコウでフリーレッグの膝をつく形になり、一瞬間をおいてから両手を頭上にあげて2トウループをつけた。
最後の3アクセルは軽々と降りたが98.39というスコアが出ると、キス&クライでスコアにちょっと納得ができないというように、何度か首を傾げてみせた。
思いのほかスコアが伸びなかった理由は、名前を呼ばれてから30秒以内に演技のスタート位置につくというルールでタイムオーバーしてしまったため、マイナス1の減点がついてしまったこと。4サルコウが、膝をついたフリーレッグに体重が移動したというルールに引っかかり、コンビネーションとして認められなかったことなどが後にわかった。
ミックスゾーンに来て「悔しいです」と何度か繰り返し、「そんなに悪くないと思った。でも(スコアを見た瞬間は)減点がついていたことは知らなかった。ミスはミスです」と語った。
期待されていたネイサン・チェンは、4ルッツ+3トウループ、4フリップを成功させたが、3アクセルで転倒。97.33というスコアで6位スタートになった。
誰が表彰台に立ってもおかしくない世界最強の6人がフリーの最終グループになり、いよいよフリーへと向かうことになった。
演技を終えた羽生が、高々と人差し指で天を指した。
2日後の4月1日に行われた男子フリーでは、最終グループで羽生が再び1番滑走だった。
久石譲の音楽を使った『Hope and Legacy』で、きれいな4ループから演技を開始。続いた4サルコウも、まるで3回転ジャンプのように軽々と降りた。コンビネーションスピン、ステップシークエンスとスピードを保ったまま後半に向かう。
勝負の決め手は、後半に入れた2度の4回転だった。
SPでミスをした4サルコウ+3トウループをきれいに決めた瞬間、羽生がタイトルを取り戻す、と確信した。
続く4トウループも完璧な着氷。続いた2度の3アクセルは、羽生にとってもっとも安定したジャンプで見ていて安心である。最後の3ルッツがきまった瞬間、会場は怒涛のような歓声に包まれた。
演技を終えた羽生は、片手を高々とあげて人差し指で天を指した。
凄まじいばかりの集中力。
王者羽生結弦の本領を発揮した、神がかりの演技だった。